特許・著作権の会計処理
企業のノウハウの源泉とも言える特許権や著作権などの知的財産は、その実態が財務諸表に反映されにくい経営リソースの代表格と言えるでしょう。
1月16日の日経15面では、「見えざる資産の素顔5」というテーマで、バランスシートではわからない、特許などの無形資産の分析について、詳しく報じられています。
日本企業の特許出願件数は、電機や自動車を中心に世界トップクラスと言われています。
たとえば2012年の特許区の国際出願件数はパナソニックが2位で2,951件、シャープが3位で2,001件にも上ります。
(参考…1位は中興通迅(中国)で3,906件)
第6位はトヨタ自動車の1,652件です。
世界トップ10に3社も入っているのは日本だけですね。
これは地味にすごいことだと思いますよ?。
あとは、これらの出願特許をどのように製品化するか?
という戦略的な応用の段階で、日本が独創性・創造性をより発揮するようになれば、もっと国際的な競争力や、経済力が高まるようにも感じられます。
さて、特許のような法律上の権利として存在する無形の知的財産権は、会計理論上、どのようなかたちで反映されるのでしょうか。
今回は、その基礎知識をご紹介します。
【法律上の権利と会計処理】
各種の法律に基づく権利としての無形固定資産には、次のようなものがあります。
1.特許権:
自然法則を利用した高度の技術的発明を独占的・排他的に使用する権利。
2.実用新案権:
特許権ほど高度な発明ではないが、物品の計上・構造・組み合わせに関する実用的な公安を独占的・排他的に使用する権利。
3.意匠権:
物品の計上・模様・色彩など視覚に訴え美感を起こさせるデザインを独占的・排他的に使用する権利。
4.商標権:
文字や図形から構成される商品のトレードマークを独占的・排他的に使用する権利。
5.借地権:
建物の所有を目的として地主から借りた土地を使用する権利。より具体的には土地の賃借権土地条件がある。
6.鉱業権:
一定の区域で特定の鉱物を採掘し取得する権利。
7.漁業権:
公共用水面の特定区域に置いて漁業を営む権利。
(参考文献「財務会計講義 第14版(桜井久勝著。中央経済社)」)
上記のうち、特許権・実用新案権・意匠権・商標権の4つは、特に産業財産権や工業所有権などと呼ばれることもありますね。
これら法律上の権利をバランスシートに計上するときは、次の考え方にもとづきます。
(会計上の原則的な考え方)
資産の取得原価(取得時の評価額)決定における基本原則は、
「購入代価」+「付随費用(その資産の取得に直接要した費用)」
です。
たとえば特許権の場合、次の2つのケースに分けて考えます。
(1)他者から購入した場合
(2)自社で研究開発の結果取得した場合
(1)他者から購入した場合
特許権の取得原価=購入代価+出願料・登録費用などの付随費用
(2)自ら研究開発の結果取得した場合
結論として、バランスシート上、取得原価がゼロになるのが通常の処理と考えられます。
(理由)研究開発費の会計基準にしたがい、研究開発に要した支出は、すべてその期の費用として処理されてしまうため、その後、特許として結実しても、費用処理を取り消して(戻し入れて)特許権の取得原価に算入することはしません。
また、そのさいの出願料・特許料その他登録のためにかかる付随費用は、法人税法上、取得原価に含めなくても良いとされています。
このように、他から購入したか、あるいは自ら発明して取得したかによって、特許権などの資産計上額が変わってしまうのですね?。
ちょっとした違和感を感じるところかもしれません。
なお、バランスシートに計上した法律上の権利は、一定の方法によって各期に費用配分されます。
「償却」と呼ばれる手続です。
具体的には、残存価額(期限が切れる時の評価額)をゼロとして、いわゆる定額法(毎年一定額を償却費とする計算方法)によるのが多くの場合です。
また、たとえば、税法の規定にしたがえば、特許権は8年、実用新案権は5年などのように償却の期間が決められています。
有形固定資産の減価償却に似た会計処理ですね。
以上、あまりメジャーではありませんが、企業の競争力の源泉としては、近年無視しえない経営リソースの会計処理に関するお話でしたー。
無料メール講座
法人税申告書作成の実務
社長BOKIゲーム企業研修
無料メールマガジン
プロフィール
著書一覧
新着記事
- 公式法変動予算(2級工業簿記)
公式法変動予算の定義 製造間接費を管理する方法 操業度(生産量や稼働時間)の増減に応じて予算額が変動 関連用語 固定予算、製造間接費の管理、予定配賦、配賦差異など 予算の概念 将来の一定期間における事業計画の財務面を示す経営計画 製造間接費は「変動費」と「固定費」に分けて管理 変動費 操業度の増減に応じて変動する原価(例:水道光熱費、間接材料費) 固定費 操業度に関わらず一定額が発生する原価(例:家賃、リース料) 変動予算の特徴 固定費は操業度に関係なく予算額は変わらない 変動費は操業度に応じて予算額が調整される 具体例 フル操業(500時間)、変動費率700円、固定費600,000円の場合 500時間の予算額: 700円 × 500時間 - 受取手形(3級・2級商業簿記)
受取手形 手形は売上代金の回収方法の一つで、現在は手形レス化が進んでいる それでも簿記学習には重要なテーマ 受取手形の定義 将来の一定期日に、手形に記載された代金を受け取る権利を表す資産勘定 関連用語 売掛金: 商品を販売して代金を後で受け取る権利 売上債権: 売掛金と受取手形を合わせたもの 貸倒引当金: 売上債権に関連し設定される 売上代金の回収方法 現金売上: 代金をその場で受け取る 掛売上: 後払い、未回収の代金は「売掛金」 受取手形: 取引先が発行した約束手形を受け取った場合 取引例 商品40万円を売上げ、20万円を現金で受け取り、残り20万円を約束手形で受け取る 仕訳例 売上 400,000円 現金 200,000円 受取手形 200,000円 - 報酬、連結決算、有価証券報告書
報酬 職務の遂行に対する対価として支払われる現金やその他の資産。 従業員の報酬 給与手当(指示命令系の仕事)。 役員の報酬 役員報酬(専門家としての経営成果に対する報酬)。 経営プロフェッショナルとして経営を委託されるため、給与とは区別される。 専門家報酬 会計士や税理士に支払う報酬(業務委託の形)。 連結決算 親会社と子会社などの企業群の決算を合算して、グループ全体の損益を算出する手法。 上場企業においては、単体決算だけでなく、連結決算が重視される。 連結決算に基づく財務諸表は「連結財務諸表」と呼ばれる。 英語表記は「Consolidated Financial Statements」。 有価証券報告書 上場企業や一定規模以上の企業が作成し、外部に開示する義務がある報告書。 - 製造間接費(2級工業簿記)
製造間接費の定義 製造間接費は、間接材料費、間接労務費、間接経費の合計額。 これらの費用は直接製品に関連付けられないため、基準を用いて製品に配分する。 製造間接費の配分基準 直接作業時間や機械運転時間、直接労務費などが配分基準として使用される。 作業時間が多い製品には、より多くの製造間接費が配分される。 関連する用語 間接材料費、間接労務費、間接経費、配賦率、配賦、仕掛品 など。 配賦率は、1時間あたりの製造間接費を示し、基準に基づいて製品ごとに製造間接費を配分するために使用される。 製造間接費の配分方法 製造間接費は直接製品に関連付けられないため、合計額を配分基準に基づいて配分する。 直接作業時間や機械運転時間などの基準を使用して、配賦率を算出し、製品ごとに配分。 - 退職金、総務、経理
退職金 簿記2級から登場、簿記1級では頻繁に出題 企業で長年働いた役員や従業員に支払われる金銭 長期間の勤務に対する対価として、支払額は大きくなることが多い 退職金を毎年積み立てることが望ましい 退職給付引当金として負債計上 役員への退職金は「退職慰労金」と呼ばれることもある 簿記では従業員に対する退職金の引当金を覚えることが重要 総務 企業内で重要な役割を担う管理部門 人事、経理、広報などの専門部署がない場合、業務をまとめて担当 企業によって役割や業務内容が異なる 大企業では株主総会の準備や社長秘書業務なども含まれる 中小企業では管理業務のほとんどを担当することがある 営業部門や製造部門などの専門部署以外の事務を担当 経理