武田が研究開発の重点を量から質に転換
武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長と長谷川閑史会長が6月30日に日経新聞の取材に応じ、年末までに効率的な研究開発の案を出したり6つの重点分野を見直したりするなど、研究開発戦略の見直しを検討していることが報じられました。
武田薬品の2014年3月期の連結営業利益(国際会計基準)は1,392億円で、前期比114.3%ものアップとなっています。
なお、研究開発費は前期比で202億円(6.3%)アップの3,416億円です。
次期の見通しとしては、営業利益は1,500億円、研究開発費は3,500億円を予定しています(決算短信より)。
予想売上高が1兆7250億円のため、売上高に対する研究開発費の割合が20.3%程度となります。
一般事業会社の感覚からすると、売上の2割を研究開発につぎ込まなければいけないという面で、かなり特徴的だというイメージを持ちますね。
ちなみに、たとえば製薬会社で大手のアステラス製薬は、2015年3月期の予想売上高が1兆1,920億円、予想研究開発費が1,980億円ですから、比率は16.6%です。
武田ほどではないですが、やはり16%以上という数値は、全業種の平均からすると、そうとう高いといえるでしょう。
ここで基礎知識です。
【研究・開発にかかる支出の会計処理】
研究及び開発にかかる支出費用は、その発生した事業年度にすべて費用として会計処理します。
たとえば、それが将来成功して、資産価値を持つようになる可能性があるとしても、資産としては計上せず、すべてその期の費用とするのが現在の会計基準における原則です。
(理由)
1.研究・開発の成否が不明であり、その資産性(将来の収益の獲得に貢献しうること)がかならずしも担保されません。
多くの場合、失敗することが多いでしょうから、資産性のあるものの方が一般には圧倒的に少ないといえるでしょう。
そういった事情から、資産性のあるもの=将来の収益の獲得に貢献できるものを厳密に区別するのは相当困難といえそうです。
2.企業間比較の観点から、一律費用処理を求められます。
研究・開発の状況は各社さまざまであり、多様な研究開発活動のすべてのパターンを想定した詳細な研究開発の会計ルールを作り、それを運用させることは現実的に不可能といってもいいでしょう。
ならば、会社ごとに恣意的(=故意に自己流の解釈で都合のいい処理を選ぶ意図をもって)に研究開発コストの費用計上または資産計上を選択されると、企業間の財務分析上の比較ができなくなります。
そういった、財務分析上の要請から、研究開発コストを一律費用処理として、損益計算書の本体あるいは注記などで他社比較ができるように開示させた方が有用性があると考えられるのですね。
なお、たとえばもっぱら研究開発のためだけに取得された機械装置など(研究専用設備)は、他に転用ができない場合などにつき、取得時にすべて費用処理します。
これは、上級レベルの簿記の計算問題で、引っかけとして出ることがあります。
たとえば「研究用に機械装置1,000万円を取得した。転用はできない。」などと問題文に書かれていたら、おもわず固定資産として計上し、耐用年数にわたって減価償却してしまいたくなりますね。
でも、この場合には研究開発費1,000万円と費用計上しないとアウトになります。
製薬会社は、新薬の研究開発活動にどれだけの資金を配分したか、によって将来の競争力に大きな影響を及ぼしますから、研究開発費に関する財務情報は、投資家にとってとても重要なものになるといえますね。
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