M&A会計を金融庁が重点審査
金融庁が、企業のM&A(合併・買収)に際して、買収価格の算定ひいてはのれんの計上額についての適正性を重点審査するようです。
約4,000社を対象に、有価証券報告書を審査してM&Aに際しての企業価値の算定が過大になっていないかどうかなどにつき、調査・検討することになります。
6月末から質問表を送る対象企業の選定などをはじめます。
記憶に新しいところでは、オリンパスが過去の莫大な株式の含み損を簿外のうちに処理するために、企業買収価格を実態以上に高く評価するなどして、のれん計上を利用するなどの操作をしましたね。
企業価値の算定というのは、いうなれば、その会社をいくらで買うか、といった「会社の値段の決定」ですから、専門家でもない多くの部外者にとっては、その算定根拠がよくわらかない世界なのです。
ここで、基礎知識です。
【企業価値の算定方法】
企業価値とは、会社の値段です。
企業は組織であり、日々刻々と変化しています。
また、様々な事業を営み、種々多様な資産を抱えていることから、いちがいに会社の値段を決める、といっても、考慮すべき要素がありすぎて、ピタっと一発で「この会社は○○円だ!」みたいに誰もが納得する価格決定を行うことはほぼ不可能です。
じゃあ、どうするか、というと、会計理論的には、次の3つの算定アプローチ法があります。
(その1)コスト・アプローチ
その会社のバランスシート上の資産と負債を時価で評価し、いま、あらためて取得したらいくらかかる?という観点から積算していくやり方。
たとえば、A社のバランスシートにおける資産が、現金預金10億円と棚卸資産20億円と固定資産30億円だったとします。
総資産が60億円ですね。
これらはすべて時価で評価した額としましょう。
ここから、負債として借入金が25億円あったとして、正味の純資産(時価ベース)は60?25=35億円となります。
最新の評価で資産・負債を再取得すると仮定した場合の企業価値は35億円と算定され、これがコスト・アプローチによる企業価値の算定例となります。
なお、ここでいうコストとは、その企業を取得するために必要とする対価(支払額)のことですね。
(その2)インカム・アプローチ
つぎに、その企業が将来に向けて得られるであろう儲け(収入)から逆算して企業価値を求める方法です。
たとえば、毎年2億円の利子がもらえる定期預金があったとしましょう。
この定期預金の利率が仮に1%だとしたら、必要な預け入れ額は2億円÷0.01(1%)=200億円ですね。
この場合、2億円という毎年の収入(インカム)に対して、1%の利回りを期待する場合の投資額として、200億円が見込まれるという計算になります。
また、この定期預金に対して、2%の利回りを求めるならば、2億円÷0.02(2%)=100億円と、100億円しか預ける気がない、ということがいえます。
つまり、たとえば毎年2億円のキャッシュ・フローないし収入を得られる企業を買収するときの価格として、1%の利回りで良しとするならば200億円投資するし、いやいや2%の利回りはないとね、という投資家ならば
100億円の値段しかその投資案(企業買収案)にはつけないことでしょう。
このように、将来の収入額の見積もりと、利回りの情報があれば、インカム・アプローチにおける企業価値を求めることは、比較的簡単です。
この考え方にもとづく企業評価方法として、近年注目を浴びているのが「ディスカウント・キャッシュ・フロー法」(DCF法)です。
不動産鑑定の世界でも、ある時期からこの用語がメジャーになりました。
(その3)マーケット・アプローチ
これは、その投資商品の市場における取引価格、または類似商品の市場における取引価格に一定の調整をおこなった合理的とされる価格などをもって、企業価値を算定する方法です。
相続税における未公開株の評価などでは、類似業種批准価格などといった用語が有名です。
不動産鑑定の世界では、批准価格ともいって、近隣の条件が類似する不動産の売買実績などを参考にして、目当ての不動産価格を類推する、みたいなかんじになります。
上場企業の株式ならば、まさに直近などで成立した株式市場での売買価格をそのまま参考にすることも可能でしょう。
以上のように、企業価値を算定するにあたっては、いろいろな観点からの算定方法が考えられます。
また、いったん買収価格が議論されると、その額は億円単位になることが多く、企業の資金繰りやのれん計上額や将来の業績に与える影響も非常に大きくなります。
企業評価の実務には、弁護士・会計士・税理士など、各方面の専門家が知識と経験を結集してあたります。
責任が思いと同時に、プロとしては、とてもやりがいのある仕事ということができるでしょう。
こういった企業価値算定のプロセスも、今後はよりいっそう厳しい目で審査されることになるのだろうな、と思います。
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配賦差異の重要性 2級工業簿記で非常に重要な概念。 製造間接費を予定配賦や標準原価計算で計算する際に生じる差異。 試験対策として配賦差異の理解は必須。 配賦差異の定義 配賦差異は、製造間接費の予定配賦額(正常配賦額)と実際発生額との差額。 この差異の把握は、原価管理やコスト管理において重要。 関連用語 「実際配賦」、「予定配賦率」、「製造間接費」、「部門費」など。 配賦差異には「予算差異」と「操業度差異」の2種類がある。 配賦差異の計算方法 予定(正常)配賦額 = 予定(正常)配賦率 × 実際操業度。 実際発生額との差額が配賦差異。 差異の処理方法 実際発生額が予定額を上回る場合、追加コストとして借方差異(不利差異)。 実際発生額が予定額を下回る場合、コスト節約として貸方差異(有利差異)。手形貸付金・借入金(3級・2級商業簿記)
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