物価連動債の発行額を倍増!?
財務省が、物価連動債の発行額を 2014 年度に 1 兆 2000 億円と今年度末の 2倍程度に増やす方針だそうです。
これは、アベノミクスで好転しつつある景気にデフレ脱却と目標とする適度なインフレへの期待感が高まってきていることを背景としています。
物価連動債とは、その名のとおり物価水準の変化に比例して元利の額も変動する債券のことです。
一般に、インフレが進むと貨幣価値が下がるため、将来の回収額が決まっている貸付債権や満期まで保有する一般の債券などは、実質的な価値が目減りします。
少々極端ですが、たとえば 1000 万円の貸付金があったとして、今は缶コーヒーが 1 本 100 円で返るような物価水準だとしましょう。
それが、一年後にはたとえば同じ缶コーヒーが 1 本 200 円出さないと買えないような、物価水準が 2 倍に膨れ上がる厳しいインフレになったとします。
そうなると、同じものを買うのに 2 倍の貨幣額が必要なので、円という貨幣の価値は一年後に 2 分の 1 まで下がったことになりますね。
ここで、一年後になっても貸付金の将来回収額が 1000 万円のままだったらどうでしょう。
今ならば 1000万円で 1000万円÷100 円=10万本買えていた缶コーヒーが、1年後は 1000 万円÷200 円=5 万本となって、2 分の 1 の数量しか買えなくなります。
つまり、インフレ率 100%で 2 倍の物価になった世界では、貸付金の価値が2 分の 1 に目減りしてしまうのです。
このように、5%のインフレがやってくれば、5%分だけ元金回収額固定の貸付債権や国債などの債券の価値が目減りするので、それにあわせて債券の想定元金なども 5%上昇させて、インフレに伴う「本来ならば元金固定の」
資産の目減りを防ぐのが、物価連動債の目的です。
ちなみに、より詳細な物価連動債の説明は、次の財務省のホームページが参考になるでしょう。
⇒
http://www.mof.go.jp/jgbs/topics/bond/10year_inflation-indexed/syo
uhinsekkei.htm
通常の固定利付国債は、発行時の元金額が償還時まで不変で、利率も全ての利払いにおいて同一です。
従って、利子の額は各利払いにおいて同一であり、償還時には最後の利子と発行時の元金額(=額面金額)が支払われます。
これに対し、物価連動国債は、元金額が物価の動向に連動して増減します。
すなわち、物価連動国債の発行後に物価が上昇すれば、その上昇率に応じて元金額が増加します(以下、増減後の元金額を「想定元金額」といいます。)。
償還額は、償還時点での想定元金額となりますが、平成 25 年度以降に発行される物価連動国債には、償還時の元本保証(フロア)を設定します。
利払いは年2回で、利子の額は各利払時の想定元金額に表面利率を乗じて算出します。表面利率は発行時に固定し、全利払いを通じて同一です。
従って、物価上昇により想定元金額が増加すれば利子の額も増加します。
なお、欧米諸国でもこうした形態の物価連動国債が発行されています。
ここで注意すべきは、平成 25 年 10 月に発行された物価連動債は、物価上昇で元本が上昇することがあっても、物価が反対に下落しても、元本保証がある、という特徴があることです。
一般的には、物価が上がれば元本も上がるけど、物価が下がれば元本も下がるよ、という形になるようなイメージですが、今般の日本における物価連動債は、元本保証です。
この点については、物価下落時に元本が連動しないことから、利回りに一貫性が保てずゆがみが生じるという問題点も指摘されています。
ちなみに、物価連動債を購入した場合、企業はバランスシート上「投資有価証券」として表示し、時価で評価します。
そして、原価と時価の差はP/Lの損益とはせず、「その他有価証券評価差額金」という名称で純資産に直接計上します。
(計算例)
原価 96 で購入していた物価連動債の時価が 98 になった。
時価と原価の差額は損益とせず、純資産の部に「その他有価証券評価差額金」として記載する。なお、税効果会計は無視する。
バランスシート
(資産の部) (負債の部)
投資有価証券 98 (純資産の部)
: その他有価証券評価差額金 2
もともと物価連動国債などは、物価変動に連動する部分をデリバティブの一種と考えることもでき、物価変動連動部分のデリバティブと債券(満期保有目的部分)の複合的な金融商品と見ることができます。
しかし、現在の会計ルールでは、これらを区分して考える事は不要とし、まとめて時価評価して差額は当期の評価損益のようにして業績(P/L)には反映しないようにしています。
やや特殊な取引の処理ですが、発行額が増え、インフレ懸念への資産価値の目減り対策として、こういったものの取引が今後増える可能性もあるよ、ということを頭の片隅に置いていただけたらよろしいかと思います。
無料メール講座
法人税申告書作成の実務
社長BOKIゲーム企業研修
無料メールマガジン
プロフィール
著書一覧
新着記事
- 【連結入門・未実現利益の考え方】土地と建物の未実現利益に関する処理の比較でマスター
連結会計を学ぶ上で、未実現利益の正しい理解は必須ですね。 この点、最初の理解の仕方を間違えてしまうと、けっこう連結が苦手になったり、遠回りしてしまったりしてしまいます。 そこで、今回の動画では、まず一番簡単な土地の親子間売買(ダウンストリーム)を取り上げ、それとの比較で建物の売却による未実現利益の消去と、それに伴う減価償却費の連結修正について簡単な事例を使って解説いたしました。 この10分程度の動画をさっと視聴することで、連結会計の未実現利益に対する苦手意識を取り除くきっかけになればうれしいです! - 会計士志願者が2倍も、監査法人離れ
2023年9月21日の日経1面です。 2015年を底に2023年までの8年間で公認会計士試験の受験者数が倍増し12年ぶりの2万人台を記録したそうです。 ※2013年~2023年の願書提出者数 2023年 20,318人 2022年 18,789人 2021年 14,192人 2020年 13,231人 2019年 12,532人 2018年 11,742人 2017年 11,032人 2016年 10,256人 2015年 10,180人 2014年 10,870人 2013年 13,224人 (資料:マイナビ会計士)※2013年~2022年 ※2023年は金融庁ホームページ たしかに、過去10年程度で2015年の10,180人がそこになっており、そこから20,318人ですから、この期間において2倍程度増えていますね。 - 社外役員の兼任者数が4割アップ!?~会計士・税理士に新たなフィールドのチャンスが到来?
昨日の日経朝刊は、コーポレートガバナンスに関する非常に興味深い記事でした。 日経1面に出るということは、その日のニュースの中でも日本経済全体に影響を及ぼすと判断されたトピックと考えられるのですね。 いま、日本企業の多くは閉塞感にとらわれているかもしれません。 先行き不透明な中、社内の限られた知見だけで経営を続けていくのがますます難しくなってきています。 社内の常識が世間の非常識、なんてこともあったりしますね。 私は監査法人の勤務時代から強く感じていたことがあります。 会計士はその会社に年中いるわけではないので、その会社の業界知識の深さについてはかなわないのですが、彼らになくて私たちにあったのは「他の多くの会社の実務を見て実態を知っている」という点です。 - 【時事ニュースで学ぶ会計知識】オリンパスの売上高当期純利益率が100%超!?
2023年8月30日の日経18面で報じられていました。 オリンパスの売上高当期純利益率がなんと100%を超えたという珍しいケースです。 普通は、売上高を100とするならば、営業利益は5~8%程度、当期純利益は税引き後なので3~5%くらいがよくあるケースです。 営業利益率が10%以上になってくると、本業で結構儲けが出ている印象を受けます。 個人的には非常に良いイメージですね。 この点、オリンパスさんの営業利益率は13%を超えていますので、一般的な視点で行けば本業での好調さが想像されます。 そして、そこから一定の調整を経て、さらに法人税等が差し引かれるので、営業利益よりも当期純利益は少なくなるのが通常です。 しかし! - 【読んでみたい一冊】週3バイトが東大合格した時間術の本
今回は時間術に関する興味深い視点の本をご紹介します。 限られた時間で効率よく勉強しながら東大に合格した実体験から自身で身に着けた時間管理ノウハウを本にまとめたものです。 ユニークな視点でなるほど~、と思わせるところが多いのと、読みやすく短時間で一気に通読できることから、手軽に時間生産性を上げるためのヒントとして、動画で取り上げてみました。 全部で3章構成からなっているのですが、その全体フローがそのまま企業コンサルの手順にも応用できます。 すなわち、 ステップ1 ムダを削減する ステップ2 今の仕事の効率を上げる ステップ3 それを継続する です。 こうやって書いてみると非常にシンプルですが、そのシンプルさの中にこそ、マネジメントの本質が隠されていることもあります。