三越伊勢丹が、食品売り場を大幅改装で30億円
三越伊勢丹ホールディングスが、地方や郊外百貨店の食品売り場の改装を
拡大するそうです。
2014年3月期は30億円を投資して、伊勢丹松戸店(千葉県)や福岡三越など7店舗を改装します。
地方・郊外店がショッピングセンターなどとの競争で収益性が低下し、厳しい状況になっていることも、このような思い切った戦略計画の背景となっていることでしょう。
8月に食品売り場を全面改装した仙台三越の例では、買い物をしやすいよう通路幅を広げ、牛肉やワインなどの品ぞろえを充実・拡大することで、その後の業績が好調なのだそうです。
こういった店内改装などに資金を投下することで、利便性が高まる、新鮮味が増す、話題性が高まるなどのプラス要因が働き、既存客の購買回数や購入単価を引き上げ、さらには新規客を呼びこむチャンスが増えるなど、さまざまな効果が期待できます。
これは、なにもリアル店舗だけでなく、インターネット通販を行っている企業であっても、ホームページの大幅リニューアルによって買い物の利便性が増す、マンネリ感を打破して新規アクセス数が増えるなどの集客効果が期待できます。
こういった集客アップ、購買単価アップを見込んだリニューアルの支出を、会計上はどう扱うのかについて取り上げます。
【基礎知識】資本的支出と収益的支出
ある固定資産(建物や設備など)を維持・修繕するために、資産を取得後も支出することがあります。
これらをまとめて「修繕支出」と呼ぶことにします。
この修繕支出は、次のような観点から2種類に分けた上で、異なった会計処理方法を行います。
1.資本的支出(長期的に資産価値を高める支出)
そもそも「資本」とは、将来の収益アップなどを目的として投下された資金のことです。
ここで、たとえば建物の内装工事と言っても、それが建物の機能をアップするとか、将来の収益アップに貢献するような大規模な改修にあたるものだったら、その修繕支出の効果は長期間にわたることが予想されます。
このような将来の収益アップなどに貢献する支出は「資本」として扱われます。
つまり、いったん「建物」などの固定資産の追加取得として資産計上され、その後、耐用年数(予想される資産の寿命)にわたり定額法・定率法などの計算方法によって減価償却されるのです。
(取引例)
店舗の大規模改修を行い、500万円を支出した。これを資本的支出として扱い、建物勘定の増加として処理する。
(借方) 建物 500万円 (貸方) 現金預金 500万円
2.収益的支出(設備の現状回復・現状維持の費用)
収益といえば、損益計算書に表示される利益の増加項目です。
たとえば、床のタイルが一部欠けているので、その付近のタイルを貼り替えたとか、窓が割れたのでガラスを交換したとか、給排水設備の水の流れが悪くなったので、劣化した部分を修理したとか、壁紙を張り替えたとか、
いろいろと現状を維持するために必要な補修の支出ってかかりますよね。
こういったものは、「将来の収益アップに貢献」するというよりも、「そのままにしていたら収益ダウン」になりかねない状態を「現状のまま維持するため」に修理するような支出です。
なので、今の売上などの収益を維持するための経費として考え、「修繕費」という費用科目で仕訳したりします。
現状の収益計上と対になる(費用としての)支出項目なので、収益的支出と呼ぶのね、くらいのイメージでいいでしょう。
(取引例)
キッチンのまわりの床が傷んできたので、近所の工務店に依頼して床周りの補修をしてもらった。月末に請求書が届き、代金は10万円であった。
(借方) 修繕費 10万円 (貸方) 未払金 10万円
※請求書をもらった時点では、未払いの債務が発生したと考えるので、貸方には現金のマイナスではなく、「未払金」という負債科目が発生します。
このように、その設備の経済価値を高めるような改良のための支出ならば「資本的支出」=「固定資産」、その設備の価値を現状のまま保つ修理のための支出ならば「収益的支出」=「修繕費」という科目でそれぞれ処理するのだな、とイメージしていただければ良いでしょう。
したがって、冒頭の事例でとりあげた三越伊勢丹の店舗の30億円規模ともされる大規模改修は、新聞報道の情報をすなおに解釈する限りにおいて、
今後の決算書のバランスシート(貸借対照表)の資産の部、固定資産の増加として反映されるのではないかな、と思われるわけです。
その後は、減価償却費という形で、数年間にわたって少しずつ費用化されることになるのでしょうね。
?2005年の発売より、講座受講数は300名を超えます?
※減価償却などの基本的な簿記の知識と技術をマスターしたい方は、初心者でも6時間で簿記の基本と全体像がわかる「財務チャート式・簿記講座」をご利用ください。
⇒ https://bokikaikei.net/2006/06/post_36.html
無料メール講座
法人税申告書作成の実務
社長BOKIゲーム企業研修
無料メールマガジン
プロフィール
著書一覧
新着記事
- 【連結入門・未実現利益の考え方】土地と建物の未実現利益に関する処理の比較でマスター
連結会計を学ぶ上で、未実現利益の正しい理解は必須ですね。 この点、最初の理解の仕方を間違えてしまうと、けっこう連結が苦手になったり、遠回りしてしまったりしてしまいます。 そこで、今回の動画では、まず一番簡単な土地の親子間売買(ダウンストリーム)を取り上げ、それとの比較で建物の売却による未実現利益の消去と、それに伴う減価償却費の連結修正について簡単な事例を使って解説いたしました。 この10分程度の動画をさっと視聴することで、連結会計の未実現利益に対する苦手意識を取り除くきっかけになればうれしいです! - 会計士志願者が2倍も、監査法人離れ
2023年9月21日の日経1面です。 2015年を底に2023年までの8年間で公認会計士試験の受験者数が倍増し12年ぶりの2万人台を記録したそうです。 ※2013年~2023年の願書提出者数 2023年 20,318人 2022年 18,789人 2021年 14,192人 2020年 13,231人 2019年 12,532人 2018年 11,742人 2017年 11,032人 2016年 10,256人 2015年 10,180人 2014年 10,870人 2013年 13,224人 (資料:マイナビ会計士)※2013年~2022年 ※2023年は金融庁ホームページ たしかに、過去10年程度で2015年の10,180人がそこになっており、そこから20,318人ですから、この期間において2倍程度増えていますね。 - 社外役員の兼任者数が4割アップ!?~会計士・税理士に新たなフィールドのチャンスが到来?
昨日の日経朝刊は、コーポレートガバナンスに関する非常に興味深い記事でした。 日経1面に出るということは、その日のニュースの中でも日本経済全体に影響を及ぼすと判断されたトピックと考えられるのですね。 いま、日本企業の多くは閉塞感にとらわれているかもしれません。 先行き不透明な中、社内の限られた知見だけで経営を続けていくのがますます難しくなってきています。 社内の常識が世間の非常識、なんてこともあったりしますね。 私は監査法人の勤務時代から強く感じていたことがあります。 会計士はその会社に年中いるわけではないので、その会社の業界知識の深さについてはかなわないのですが、彼らになくて私たちにあったのは「他の多くの会社の実務を見て実態を知っている」という点です。 - 【時事ニュースで学ぶ会計知識】オリンパスの売上高当期純利益率が100%超!?
2023年8月30日の日経18面で報じられていました。 オリンパスの売上高当期純利益率がなんと100%を超えたという珍しいケースです。 普通は、売上高を100とするならば、営業利益は5~8%程度、当期純利益は税引き後なので3~5%くらいがよくあるケースです。 営業利益率が10%以上になってくると、本業で結構儲けが出ている印象を受けます。 個人的には非常に良いイメージですね。 この点、オリンパスさんの営業利益率は13%を超えていますので、一般的な視点で行けば本業での好調さが想像されます。 そして、そこから一定の調整を経て、さらに法人税等が差し引かれるので、営業利益よりも当期純利益は少なくなるのが通常です。 しかし! - 【読んでみたい一冊】週3バイトが東大合格した時間術の本
今回は時間術に関する興味深い視点の本をご紹介します。 限られた時間で効率よく勉強しながら東大に合格した実体験から自身で身に着けた時間管理ノウハウを本にまとめたものです。 ユニークな視点でなるほど~、と思わせるところが多いのと、読みやすく短時間で一気に通読できることから、手軽に時間生産性を上げるためのヒントとして、動画で取り上げてみました。 全部で3章構成からなっているのですが、その全体フローがそのまま企業コンサルの手順にも応用できます。 すなわち、 ステップ1 ムダを削減する ステップ2 今の仕事の効率を上げる ステップ3 それを継続する です。 こうやって書いてみると非常にシンプルですが、そのシンプルさの中にこそ、マネジメントの本質が隠されていることもあります。