繰越欠損金76兆円が、税収の足かせに?
会社が赤字を計上した際に、税務上の恩典として、翌期以降の黒字から差し引いて税金計算をできる「繰越欠損金」という制度があります。
この繰越欠損金が長引く不況で積み上がり、法人税の税収が増えない原因のひとつになっています。
簡単な計算例で説明しましょう。
×1年4月?×2年3月までの決算期に150万円の赤字を出しました。
これが税務上の繰越欠損金にあたるとします。
この額は、その後9年間において、黒字がでたら、その額と相殺して税金計算上の所得を減らすことができます。
たとえば、×2年4月?×3年3月の決算期に100万円の黒字が出た場合、150万円の赤字のうち、100万円をその黒字と相殺して課税所得をゼロとしたうえで、×2年4月?×3年3月の法人税額をゼロにすることができる
のです。
そして、控除し切れなかった150万円?100万円=50万円分の欠損金は、その翌年以降の所得から控除できるのですね。
これは大きいです。
ちなみに、このような制度がある趣旨は、次のケースを考えればわかるでしょう。
A社は1年目に損失を100万円出しました。
2年目に利益を100万円出しました。
2年通算で利益はゼロですね。
しかし、もしも繰越欠損の制度がないと、税率を30%とすれば、2年目に100万円×30%=30万円もの税金を払わなければなりません。
次に、B社は1年目も利益ゼロ、2年目も利益ゼロ、2年合計で利益ゼロとすると、けっきょく、利益ゼロ×30%=税金ゼロとなります。
ここで、繰越欠損の控除が認められないと、A社だけ納税することになって不公平です。
このような問題が起こらないよう、繰越欠損金の制度があるのですね。
(参考)
資本金が1億円以下などの条件を満たす中小法人等は、現在、この繰越欠損の額につき、たとえば翌年の所得から全額引くことができますが、中小法人等以外の大企業は、翌年の所得の80%までが控除の限度となります。
ちなみに、海外のケースで行きますと、おおざっぱにいって、アメリカは20年間、イギリスやドイツは無期限の繰越欠損控除期間があるということで、この点、日本は短いという指摘もあるようです。
日経新聞によりますと、現在、繰越欠損金の残高が76兆円あり、たとえば2011年の黒字額43.6兆円の1.7倍だそうです。
黒字の約2割に当たる9.7兆円が繰越欠損金の控除として相殺されたので、
おおむねその30%が法人税としても、だいたい3兆円ほどの法人税が減額されたことになりますね。
これは企業にとっても大きいですが、かたや徴税側としても大きな影響です。
課税の公平という観点から実施されている繰越欠損金の制度ですが、いまや、赤字申告の割合が7割を超えているという現状で、少ない一部の黒字
企業が法人税の大部分を負担しているという現状もあるのだということを、ぜひ知っておきたいですね。
今、消費増税とのセットで法人減税が検討されています。
税率だけでなく、こういった課税ベースの問題についても、しっかりと議論していく必要があると思います。
無料メール講座
法人税申告書作成の実務
社長BOKIゲーム企業研修
無料メールマガジン
プロフィール
著書一覧
新着記事
- 【連結入門・未実現利益の考え方】土地と建物の未実現利益に関する処理の比較でマスター
連結会計を学ぶ上で、未実現利益の正しい理解は必須ですね。 この点、最初の理解の仕方を間違えてしまうと、けっこう連結が苦手になったり、遠回りしてしまったりしてしまいます。 そこで、今回の動画では、まず一番簡単な土地の親子間売買(ダウンストリーム)を取り上げ、それとの比較で建物の売却による未実現利益の消去と、それに伴う減価償却費の連結修正について簡単な事例を使って解説いたしました。 この10分程度の動画をさっと視聴することで、連結会計の未実現利益に対する苦手意識を取り除くきっかけになればうれしいです! - 会計士志願者が2倍も、監査法人離れ
2023年9月21日の日経1面です。 2015年を底に2023年までの8年間で公認会計士試験の受験者数が倍増し12年ぶりの2万人台を記録したそうです。 ※2013年~2023年の願書提出者数 2023年 20,318人 2022年 18,789人 2021年 14,192人 2020年 13,231人 2019年 12,532人 2018年 11,742人 2017年 11,032人 2016年 10,256人 2015年 10,180人 2014年 10,870人 2013年 13,224人 (資料:マイナビ会計士)※2013年~2022年 ※2023年は金融庁ホームページ たしかに、過去10年程度で2015年の10,180人がそこになっており、そこから20,318人ですから、この期間において2倍程度増えていますね。 - 社外役員の兼任者数が4割アップ!?~会計士・税理士に新たなフィールドのチャンスが到来?
昨日の日経朝刊は、コーポレートガバナンスに関する非常に興味深い記事でした。 日経1面に出るということは、その日のニュースの中でも日本経済全体に影響を及ぼすと判断されたトピックと考えられるのですね。 いま、日本企業の多くは閉塞感にとらわれているかもしれません。 先行き不透明な中、社内の限られた知見だけで経営を続けていくのがますます難しくなってきています。 社内の常識が世間の非常識、なんてこともあったりしますね。 私は監査法人の勤務時代から強く感じていたことがあります。 会計士はその会社に年中いるわけではないので、その会社の業界知識の深さについてはかなわないのですが、彼らになくて私たちにあったのは「他の多くの会社の実務を見て実態を知っている」という点です。 - 【時事ニュースで学ぶ会計知識】オリンパスの売上高当期純利益率が100%超!?
2023年8月30日の日経18面で報じられていました。 オリンパスの売上高当期純利益率がなんと100%を超えたという珍しいケースです。 普通は、売上高を100とするならば、営業利益は5~8%程度、当期純利益は税引き後なので3~5%くらいがよくあるケースです。 営業利益率が10%以上になってくると、本業で結構儲けが出ている印象を受けます。 個人的には非常に良いイメージですね。 この点、オリンパスさんの営業利益率は13%を超えていますので、一般的な視点で行けば本業での好調さが想像されます。 そして、そこから一定の調整を経て、さらに法人税等が差し引かれるので、営業利益よりも当期純利益は少なくなるのが通常です。 しかし! - 【読んでみたい一冊】週3バイトが東大合格した時間術の本
今回は時間術に関する興味深い視点の本をご紹介します。 限られた時間で効率よく勉強しながら東大に合格した実体験から自身で身に着けた時間管理ノウハウを本にまとめたものです。 ユニークな視点でなるほど~、と思わせるところが多いのと、読みやすく短時間で一気に通読できることから、手軽に時間生産性を上げるためのヒントとして、動画で取り上げてみました。 全部で3章構成からなっているのですが、その全体フローがそのまま企業コンサルの手順にも応用できます。 すなわち、 ステップ1 ムダを削減する ステップ2 今の仕事の効率を上げる ステップ3 それを継続する です。 こうやって書いてみると非常にシンプルですが、そのシンプルさの中にこそ、マネジメントの本質が隠されていることもあります。