領収書の電子保管を容認か?
政府は、会計記録の根拠資料となる領収書や契約書の原本を原則として7年保管するべきとする規則を2015年にも緩和する方針である、と日経朝刊1面で報じられていました。
現状では、たとえば法人税法施行規則第59条(帳簿書類の整理保存)で、取引に関して受取った契約書や領収書などの書類を、7年間事務所に保存しなければならない、と定められています。
これが、将来的にはスキャナーで読み取って、画像データを保存すれば、原本を捨ててもいいですよ、というルールに変わるのだそうです。
たしかに、最大で7年近く前の領収書などを大事保管するというのは、保管する側の手間とコストがばかになりません。
それなのに、なぜ企業に領収書などの保管を求めるのでしょうか。
実は、日本の会計実務の根本原則と言われている「企業会計原則」というルール集があるのですが、そこの一般原則というところに、会計理論として、領収書などの根拠資料を必要とする理屈が示されているのですね。
【企業会計原則】
昭和24年に、戦後の混乱期における会計実務に一定の秩序をもたらすことを目的として、大蔵省の下部機関で設定された会計ルール集のこと。
その内容は、
(1)一般原則(心構え)
(2)損益計算書作成原則
(3)貸借対照表作成原則、および本文の注解(全25)からなる。
【一般原則】
企業会計原則の冒頭に出てくる7つの原則。
企業会計の実務を行うものが従うべき基本的な心構えを解く。
現在の会計実務にも少なからず影響を与えている。
(1)真実性の原則
(2)正規の簿記の原則
(3)資本・損益の区分の原則
(4)明瞭性の原則
(5)継続性の原則
(6)保守主義の原則
(7)単一性の原則
今回は、一般原則の第2番目、正規の簿記の原則に関係するお話です。
正規の簿記の原則とは、企業会計を行う者に対して、「すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成」することを要請する原則のことです。
会社は、利害関係者である株主や債権者などに、企業の財務に関する真実の報告をしなければなりません。
その際に、真実の報告を支える基礎となるのは、とりもなおさず「正確な会計帳簿」なのです。
ここで、会計帳簿が「正確である」と言えるための条件として、会計理論は次の3つを列挙しています。
第1条件【網羅性】…すべての取引をもれなく帳簿に記載するべし。
言い換えれば、「都合の悪い取引をわざと除外するなよ」ということ。
第2条件【立証性】…すべての取引は、客観的な裏付けを必要とする。
具体的には、領収書や契約書などの客観的な証拠書類を揃えること。
第3条件【秩序性】…すべての取引は、整然と記録されていること。
仕訳帳と元帳の関連性など、各記録に矛盾がなく整理されている。
このような3つの条件を揃えた時に、はじめてその会社の帳簿は「正確な会計帳簿である」と認められるのです。
これは、上場企業を監査する場合にも当然当てはまります。
また、中小企業の場合は、税務調査などの外部調査を行う際に、ひとつの判断の拠り所になるでしょう。
ここまでお読みいただいてわかるように、領収書の電子保管に関する記事は、正規の簿記の原則における「正確な会計帳簿」の第2条件に深く関連するのですね!
この領収書の保存を、現物ではなく電子データとして行うことを可能とし、企業の資料保管コストの削減を後押ししようとしているわけです。
ただし、電子データの場合、現物よりも改ざんしやすくなるので、そこは厳格な電子データ化の手順やルールの設定が別途必要となるのです。
ともあれ、ひとつひとつの帳簿記入に、一定の客観的な証拠による立証性を求めるのが、会計実務の根本的なルールとなっています。
でないと、企業にとって都合の良い取引を捏造する可能性が出てくるなど、会計記録に対する信頼性が著しく損なわれます。
だから、会社の経費で物を買うときは、「立証性」を充足するために、かならず領収書をもらうように経理から言われているはずなのですね。
今回は、企業会計原則という、会計実務の根本的なルールに触れるチャンスと思い、領収書の電子保管に関する時事ニュースを話題にしてみました。
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