トヨタ、原価改善で損益分岐点を引き下げ
トヨタ自動車の2014年3月期における連結税引き前利益の予想は、前期比63%アップの2兆2900億円となりました。
2008年3月期の過去最高である2兆4372億円に迫る勢いです。
トヨタは、11月6日に2013年4月?9月の第2四半期決算を発表しました。
そのさいに、2014年3月期の年間業績の予想を次のように公表しています。
売上高 25兆円 (前期比+13.3%)
営業利益 2兆2000億円 (前期比+66.6%)
税引前当期純利益 2兆2900億円 (前期比+63.1%)
当期純利益 1兆6700億円 (前期比+73.6%)
売上高は前期比で13.3%の伸びですが、利益の増加率がすごいですね。
営業利益66.6%、税引前の利益63.1%、そして当期純利益が73.6%ものアップです。
ここまで大幅な利益の増加が達成できた理由について、新聞では、原価改善努力による損益分岐点の引き下げ効果が大きいと報じられています。
とえば、かつては利益を出すには20万台以上の生産が前提だったそうですが、その半分の生産台数でも利益を出せるコスト体質に変えるという、かなり意欲的な取り組みがあります。
そのための具体策として、ライン自体を短縮化したり、部品の点数を減らしたり、さらには車種変更による段取りの手間を省略可するなどがあります。
これらさまざまなコスト削減の努力が、目に見える結果として実を結んでいるわけですね。
ここで、久しぶりに「損益分岐点」の基礎知識です。
【損益分岐点】
黒字と赤字の境界=利益ゼロの水準のこと。
英語でbreak-even point(BE)と呼ばれる。
利益がちょうどゼロになるときの売上高を損益分岐点売上高という。
会社の損益計算書に表記されている諸費用を「変動費」と「固定費」に分類し直して表示すると、損益分岐点売上高を求められるようになります。
※変動費:売上高や操業水準の増減に比例して変化する費用。
(例)材料費、出来高払いの給料、発送費など
※固定費:常に一定額発生する費用。
(例)家賃、固定給、減価償却費、水道光熱費の基本料金など
通常の損益計算書は、
売上高?売上原価?販売費及び一般管理費=営業利益
のように表示されます。
このとき、売上原価の中には、材料費のような変動費も工場で発生する減価償却費のような固定費も混ざっています。
もちろん、販売費及び一般管理費の中にも変動費と固定費が混在しています。
このような一般的に公表されている損益計算書からは、損益分岐点売上高は求められません。
そこで、売上原価や販売費及び一般管理費を変動費と固定費に分解します。
分解のしかたは、実務的には費目別精査法といって、費用項目ごとにその性質を考慮して分類するやり方が取られることが多いです。
たとえば、費用項目のうち、材料費は変動費、労務費は固定給がほとんどならば固定費として扱うなどします。
また、外注費は中身を検討のうえ、変動費として扱うべき部分も多くみられると考えられます。
また、販売費のうち発送費用や販売促進費などは、売上高の増減に比例することが多いので、一般に変動費として分類されやすいでしょう。
その他を固定費として分類し、損益分岐点を求めることで、それほど複雑な計算手続をしなくてもある程度役に立つデータが得られます。
損益分岐点売上高を求める時は、売上高をS万円とするならば、次のような簡単な式をたててSを求めます。
【損益分岐点売上高S万円を求める式】
S?変動費?固定費=利益0万円
↓
S?変動費率×S?固定費=利益0万円
以上より、変動費率と固定費の額の2つがデータとして事前に得られるならば、かんたんに損益分岐点売上高を求めることができますね。
(計算例)
ある会社の当期における実績は、売上高50億円、変動費35億円、固定費12億円だった。
この会社の損益分岐点売上高を求める。
(計算プロセス)
1.変動費率:35億円÷50億円=0.7(70%)
2.計算式:S万円?0.7S?固定費12億円=0円
⇒0.3S=12億円より、S=40億円
以上より、計算例の会社の場合、40億円の売上高でちょうど利益がゼロ円になります。
したがって、売上高が40億円を下回ると、理論的には赤字になります。
(検算)
売上高40億円?変動費0.7×40億円?固定費12億円
=40億円?28億円?12億円=0円
さらに、この会社が翌年度に原価改善に成功し、たとえば固定費を12億円から9億円に引き下げられたとしたらどうでしょうか。
(計算)
S億円?0.7S億円?固定費9億円=0円
0.3S億円=9億円より、S=30億円
つまり、固定費を3億円カットできれば、損益分岐点売上高が40億円から30億円まで引き下げられるということです。
従来よりも売上高の限界点が10億円も下がったら、会社としては利益を残すのが、ずいぶんと楽になりますね。
以上の計算例からもわかるように、おそらくトヨタでは、固定費や変動費率の削減に組織的に取り組んで、多大なコスト構造の改善に成功したのではないかと思います。
この機会に、損益分岐点の考え方に慣れておきましょう。
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