法人の税務上の減価償却(定率法)
ここ数回、法人の税務上の減価償却についてみています。
前回は償却方法、その中でも定額法の計算方法についてお話しました。
今回は、定率法の償却方法についてみていきましょう。
定率法というのは、耐用年数の期間で、毎回一定の償却率を使って
償却費をし、償却費が最初に多く、年々減少する償却方法です。
定率法で使用する用語として、
「償却率」
「改定償却率」
「保証率」
というものがあります。
おいおい説明していきますが、この用語が定率法のポイントです。
定率法の計算式は下記になります。「旧」がつかないほうの算式です。
(取得価額 ? 前回までの償却累計額) × (1 / 耐用年数)
× 2.5×(事業の用に供した当期の月数 / 12)
この算式のうち、(1 / 耐用年数) × 2.5 の部分は、
「耐用年数に応じた償却率」(単に「償却率」ともいいます)に置き換えられます。
そのため、
(取得価額 ? 前回までの償却累計額) × 耐用年数に応じた償却率
×(事業の用に供した当期の月数 / 12)
この算式によって、その年の償却費が計上されることになります。
最初の算式の中で2.5をかける箇所があるため2.5倍である「250%定率法」
と呼ばれることもあります。
上記の算式の中に「償却率」は、定額法のときに使用した償却率とは
異なりますので注意してください。
耐用年数に応じた償却率の表は下記になります。
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/070914/pdf/06.pdf
ここまででしたら定率法もさほど難しくはないのですが、この定率法は、
あるタイミングで償却の仕方が変わります。
具体的には、上記の算式で計算した減価償却費が、「取得価額 × 保証率」の
金額を下回るときは、その事業年度から均等償却となります。
均等償却の際には、 改定取得価額 × 改定償却率 によって
減価償却費を計算することになります。
言葉で説明されてもわかりにくいかと思いますので、具体的な数字を
使ってみていきましょう。
【設例】
柴山フーズ(株)
事業年度 平成21年4月1日?平成22年3月31日
平成21年4月1日、たいやき自動製造用の機械装置を600万円で製作し完成しました。
平成21年分の償却には、「定率法」を使用します。この場合における償却費は?
取得価額は600万円になります。
耐用年数は、「別表第二 機械及び装置の耐用年数表 」から、
設備の種類 → 食料品製造業用設備
として、その耐用年数は10年ということがわかります。
次に償却率を探してきます。平成19年4月1日以後の取得分に該当し、
定率法で耐用年数が10年の場合の償却率は、0.250 ということがわかります。
その結果、この機械装置の初年度の償却費は、
6,000,000円 ×0.250 × 12/12 =1,500,000円 となります。
ちなみに、2年目以降の償却費についてもみていきましょう。
2年目は、
(6,000,000円─1,500,000円)×0.250 × 12/12 =1,125,000円
となります。
3年目は、
(6,000,000円─2,625,000円※)×0.250 × 12/12 =843,750円
※償却累計額 1,500,000+1,125,000=2,625,000円
4年目は、
(6,000,000円─3,468,750円※)×0.250 × 12/12 =632,812円(1円未満切捨)
※1,500,000+1,125,000+843,750=3,468,750円
5年目・6年目・7年目も同じ計算式で推移しますので省略します。
このケースでのポイントは、8年目です。
8年目は、
(6,000,000円─5,199,096円※)×0.250 × 12/12 =200,226円
※償却累計額 1,500,000+1,125,000+843,750+632,812+474,609+355,957+266,968
=5,199,096円
とは、なりません。それは、保証率が関係してきます。
耐用年数10年の保証率は、0.04448とあります。
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/070914/pdf/06.pdf
これを計算をすると、取得価額に保証率を乗じて、
6,000,000円 × 0.04448 =266,880円
となります。
この保証率の金額(266,880円)より、償却費の金額(200,226円)が
少なくなる場合には、その年から、均等償却に変更が必要です。
そのため、8年目から10年目までの3年間で均等に償却して、最後の
備忘価額としての1円を残す計算処理に変わります。
この均等償却には、「改定償却率」が使用され、算式は以下のようになります。
改定取得価額 × 改定償却率 =減価償却費
ここでの改定取得価額とは、その前期までの償却累計額を控除した残存簿価をさします。
今回の設例であれば、
(6,000,000円 ─5,199,096円)=800,904円が、改定取得価額になります。
これに、10年の改定償却率0.334を乗じて計算します。
その結果、8年目は、
800,904円 × 0.334 = 267,501円 が減価償却費となります。
そして、9年目も8年目と同様、
800,904円 × 0.334 = 267,501円
そして、10年目は、償却が終了する年です。
そのため、800,904円 × 0.334 = 267,501円 としてしまうと、
8年目と9年目に償却した金額の残額が、
800,904円 ─ 267,501 ×2 = 265,902円
のため、計算がおかしくなってしまいます。
そのため、10年目は、1円の備忘価額を残すように計算します。
結果、265,902円 ─1円=265,901円
が減価償却費となります。
この新しくなった定率法の計算は非常に煩雑ですね。
途中で計算式がかわるため、手作業ではミスも多くなりそうですし、かなり
大変な労力になります。
ポイントは、
・「取得価額 ×保証率」で計算した金額を下回るときに、計算方法を変更すること。
・最後の償却においては、1円の備忘価額を残すこと。
になります。
計算結果を一覧にすると、次のようになります。
https://bokikaikei.net/2009/08/post_704.html
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