2大政党制における安定均衡とは?「ダウンズの中位投票者理論」
世の中には、さまざまな市場があります。
不特定多数の企業や消費者が入り乱れている状況を「完全競争」市場と
いいます。
反対に、市場に1社の大企業だけいる状況を「独占市場」といいますね。
そして、意外に身の回りで多いのは、市場に2社以上の少数による
競争が存在する「寡占(かせん)」という状態です。
この寡占市場については、経済学の世界では、
ゲーム理論というロジックを用いてさまざまな角度から
解明しようと研究されています。
ここでは、古典的な寡占の議論である「ホテリングの立地競争モデル」
というお話をご紹介しましょう。
立地条件を2つの主体があらそうから「ホテリング」といわれると、
なんか旅館か何かの立地争いみたいで日本語の親父ギャグっぽいですが、
ホテンリングという名の経済学者がほんとにいたんですね?。
ネタ的に柴山の好きそうな条件がそろった人です、ホテリングさん。
さて、本題です。
ある通りの区画内で、AさんとBさんという二人の屋台の主人が
同じラーメンを販売しています。
屋台なので、毎朝、どこに屋台を構えるか、出店場所を決めると
しましょう。
その通り(区画)の一番左(西)の地点を(0地点)とし、
一番右(東)の地点を(1地点)と仮にしておきます。
|———————————|
0———————————1
AさんとBさんのラーメンの味、料金とも同じなので、
その通りのお客さんは、自分の生活している場所に近い
屋台でラーメンを食べています。
たとえば、Aさんが通りの一番左(0地点)で屋台を構え、
Bさんが通りの一番右(1地点)で屋台を構えると、
客は、通りの中央(0.5)を境に、0?0.5までの区画
にいる客はAさんのラーメンを食べ、0.5?1までの区画に
いる客はBさんのラーメンを食べますね。
A———————————B
0————-(0.5)————-1
ここで、あなたがBさんなら、どうしますか?
「朝一番でAさんが0地点にいるなら、俺は
Aさんのすぐ右隣の0.1地点に屋台を移動すれば、
0.1?1のお客さんは、すべて俺の屋台でラーメンを食べて
くれるじゃん!」
と考えますよね。
AB——————————-|
0(0.1)————————–1
_→0.1?1のお客は、Bが総取り!
この状況を経済学的に解釈すると、
「A=0、B=1の値は、ナッシュ均衡ではない」
といいます。
つまり、どちらかが行動を変えることで、自分の
利益を増やせる状況(=ナッシュではない)
なのです。
ナッシュ均衡とは、
「自分だけが行動をどのように変化させても、
すでに自分の利益が改善されないような状態」
を意味します。
とするなら、うえの「A=0、B=0.1」は、
まだナッシュではありません。
なぜか?
Aが報復措置を取れるからです。
「やりやがったな!Bの野郎!!
じゃあ、俺はBのさらに右隣に屋台を移動してやるう?!」
とAさんが泣き叫びながら、屋台をBさんのすぐ右に
移動しました。
…ほとんど子供のケンカですね(笑)。
|–B—A—————————|
0(0.1)(0.2)————————–1
さて、こうなるとどうでしょう。
今度は、Aさんが0.2?1間のお客さんを総取りです。
つまり、B=0.1もナッシュではなかったのです。
もちろん、A=0.2もナッシュではありません。
そうやって、さらにB=0.3、A=0.4…と、
大人気ない競争が続きます。
そして、やがて二人は気づきます。
「あ、そうか!こうやって二人で通りの中央に
仲良く出店すれば、争いをせずにすむのね??」
|————–A/B————–|
0————-(0.5)————-1
この状態になると、0?0.5はAさんの売り上げ、
0.5?1はBさんの売り上げとなり、もはやこの状態から
どちらが立地を変更しても、自分が損(1/2未満)を
することになります。
…というわけで、これで二人の争いは終止符が打たれ
ました。
終戦記念日だけに、ナッシュなオチ、いやナイスなオチ
とお感じになっていただけたら幸いです。
結局、ホテリングの立地モデルでは、
(屋台Aの戦略、屋台Bの戦略)=(1/2,1/2)
という戦略の組み合わせが最適である、
という結論を得ることができました。
こうしてみると、
ゲーム理論って、現実の世界を説明するのに
結構便利な道具なのですね。
ところで、懸命な読者の方は、はたと気づかれた
と思います。
「で、これのどこが2大政党の話なのさ…。屋台の出店争いじゃん」
はい。
経済学の面白いところは、一見あさっての議論に見えるような
関連性のないテーマが、いきなり別の社会問題にもパクれる…
いやいや援用できる、というケースが多い点なのですね。
たとえば、いまお話したホテリングの立地モデルは、
「結局、通りの真ん中が、お互いにベストの立ち位置だよね!」
という結論でした。
これを政治にあてはめると、当初は左派=A党、右派=B党だった
のが、自分の考えに近い有権者をよりたくさん取り込もうとして
いろいろとマニフェストを書き換えていった結果、
どっちも本質的には似たり寄ったりの中道政治になっちゃった♪…
なんてこと、ありません??
このような経路で、最終的に2大政党制のもとでは、
2つの中道政党ができあがる、という考え方を
ダウンズの中位投票理論といったりするのですね。
A———————————B
左————-(0.5)————-右
↓
↓
|————–A/B————–|
左————-(0.5)————-右
…いや、べつに自民党と民主党のことを
いっているわけではありませんよ。
あくまで経済学の観点から見た一般論なので、
ご了承くださいませ。
まあ、今のように経済が成熟化し、
社会が安定してきている状況では
本質的に思想が異なる2つの政党
がガチンコ勝負!みたいな状況には
なりにくい、ともおもえますしね?。
以上、衆院選を控え、政治と経済学にちょっと
かかわりのあるお話でした。
無料メール講座
法人税申告書作成の実務
社長BOKIゲーム企業研修
無料メールマガジン
プロフィール
著書一覧
新着記事
- 【連結入門・未実現利益の考え方】土地と建物の未実現利益に関する処理の比較でマスター
連結会計を学ぶ上で、未実現利益の正しい理解は必須ですね。 この点、最初の理解の仕方を間違えてしまうと、けっこう連結が苦手になったり、遠回りしてしまったりしてしまいます。 そこで、今回の動画では、まず一番簡単な土地の親子間売買(ダウンストリーム)を取り上げ、それとの比較で建物の売却による未実現利益の消去と、それに伴う減価償却費の連結修正について簡単な事例を使って解説いたしました。 この10分程度の動画をさっと視聴することで、連結会計の未実現利益に対する苦手意識を取り除くきっかけになればうれしいです! - 会計士志願者が2倍も、監査法人離れ
2023年9月21日の日経1面です。 2015年を底に2023年までの8年間で公認会計士試験の受験者数が倍増し12年ぶりの2万人台を記録したそうです。 ※2013年~2023年の願書提出者数 2023年 20,318人 2022年 18,789人 2021年 14,192人 2020年 13,231人 2019年 12,532人 2018年 11,742人 2017年 11,032人 2016年 10,256人 2015年 10,180人 2014年 10,870人 2013年 13,224人 (資料:マイナビ会計士)※2013年~2022年 ※2023年は金融庁ホームページ たしかに、過去10年程度で2015年の10,180人がそこになっており、そこから20,318人ですから、この期間において2倍程度増えていますね。 - 社外役員の兼任者数が4割アップ!?~会計士・税理士に新たなフィールドのチャンスが到来?
昨日の日経朝刊は、コーポレートガバナンスに関する非常に興味深い記事でした。 日経1面に出るということは、その日のニュースの中でも日本経済全体に影響を及ぼすと判断されたトピックと考えられるのですね。 いま、日本企業の多くは閉塞感にとらわれているかもしれません。 先行き不透明な中、社内の限られた知見だけで経営を続けていくのがますます難しくなってきています。 社内の常識が世間の非常識、なんてこともあったりしますね。 私は監査法人の勤務時代から強く感じていたことがあります。 会計士はその会社に年中いるわけではないので、その会社の業界知識の深さについてはかなわないのですが、彼らになくて私たちにあったのは「他の多くの会社の実務を見て実態を知っている」という点です。 - 【時事ニュースで学ぶ会計知識】オリンパスの売上高当期純利益率が100%超!?
2023年8月30日の日経18面で報じられていました。 オリンパスの売上高当期純利益率がなんと100%を超えたという珍しいケースです。 普通は、売上高を100とするならば、営業利益は5~8%程度、当期純利益は税引き後なので3~5%くらいがよくあるケースです。 営業利益率が10%以上になってくると、本業で結構儲けが出ている印象を受けます。 個人的には非常に良いイメージですね。 この点、オリンパスさんの営業利益率は13%を超えていますので、一般的な視点で行けば本業での好調さが想像されます。 そして、そこから一定の調整を経て、さらに法人税等が差し引かれるので、営業利益よりも当期純利益は少なくなるのが通常です。 しかし! - 【読んでみたい一冊】週3バイトが東大合格した時間術の本
今回は時間術に関する興味深い視点の本をご紹介します。 限られた時間で効率よく勉強しながら東大に合格した実体験から自身で身に着けた時間管理ノウハウを本にまとめたものです。 ユニークな視点でなるほど~、と思わせるところが多いのと、読みやすく短時間で一気に通読できることから、手軽に時間生産性を上げるためのヒントとして、動画で取り上げてみました。 全部で3章構成からなっているのですが、その全体フローがそのまま企業コンサルの手順にも応用できます。 すなわち、 ステップ1 ムダを削減する ステップ2 今の仕事の効率を上げる ステップ3 それを継続する です。 こうやって書いてみると非常にシンプルですが、そのシンプルさの中にこそ、マネジメントの本質が隠されていることもあります。