貸倒引当金の税務上の取り扱い(一括評価金銭債権)
今回も、引き続き、貸倒引当金のお話をしていきます。
税務上の貸倒引当金については、下記でしたね。
前回は、個別評価金銭債権までお話しました。
→ https://bokikaikei.net/2009/07/post_687.html
今回は、一括評価金銭債権の話をしていきます。
一括評価の計算方法を集約すると、大きく2つの段階に集約されます。
1.債権額の計算
2.繰入限度額の計算
まずは債権額の計算です。これにより債権額を確定します。
次に、貸倒の率を使って繰入限度額の計算をします。
この一括評価を使用する場合には、別表十一(一の二)
「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書」
が必要になります。
下記にある【】で記載されている番号は、この別表十一(一の二)
の番号です。それでは、1からさらに詳細に見ていきましょう。
→ https://bokikaikei.net/2009/07/post_687.html
1.債権額の計算
第一段階では、一括評価金銭債権の金額を確定させることになります。
順番としては、会計上の貸借対照表から、税務上の金銭債権に該当する
金額をもってきます。【21】
次に、その会計上からもってきた金銭債権の額に、税務上の追加分を
加算したり、税務上、認められない分を差し引いたりします。
個別評価で使用した債権額がここでは差し引かれているのが
ポイントですね。【22】?【25】
その結果、「期末一括評価金銭債権の額」【26】が計算されます。
この金額は、貸倒実績率を使う場合の金銭債権の額に使用します。
さらに、この期末一括評価金銭債権の額から実質的に債権と
認められないものの額を差し引いて、
「差引期末一括評価金銭債権の額」【28】が計算されます。
この金額は、法定繰入率を使用する場合に使います。
貸倒実績率と法定繰入率で使用する金銭債権の金額が
異なることがポイントです。
このような流れで金銭債権の額を求めていきます。
3.繰入限度額の計算
繰入の率には2種類あります。
一つが法定繰入率と呼ばれるものです。これは、資本金が1億円以下の
中小法人にしか使うことができません。
なお、繰入率は、その会社の事業によって異なり、下記のような率になります。
<法定繰入率>
事業 繰入率
卸売業・小売業 10/1000
割賦販売小売業 13/1000
製造業 8/1000
金融業・保険業 3/1000
その他の事業 6/1000
次に貸倒実績率を使用する場合には、【9】?【20】を使用していきます。
この場合の計算方法を簡単に説明すると、過去3年間における、
その会社の実際に貸倒が起きた金額を計算し、その率を
使用するといったものです。
それでは、ここまでの内容について、金額を使用してみていきましょう。
<柴山物産株式会社>
資本金1億円 卸売業
平成21年4月1日?平成22年3月31日
受取手形 10,000,000円
売掛金 25,000,000円
長期貸付金 500,000円
なお、上記には、平成21年7月1日に民事再生法による再生手続き
開始の申立てをした、インチキ商事の分として、受取手形500,000円、
売掛金1,200,000円があり、さらに、インチキ商事に対しては、
買掛金750,000円を有している。
この分については、別途個別評価にて貸倒引当金を475,000円計上している。
次に実質的に債権と認めらない金額を算出するために、会社別の表を
作成しました。該当するのは次の2社です。
アメリカ物産(株) (株)イギリス製作所
受取手形_______2,500,000__________________0
売掛金_________1,000,000__________1,200,000
計_____________3,500,000__________1,200,000
買掛金__________700,000_____________950,000
未払金________________0_____________350,000
計______________700,000___________1,300,000
さて、この会社の法定繰入率による貸倒引当金はいくらまで
計上できるでしょうか。
答え:319,000円
期末の会計上の金銭債権(A)10,000,000+25,000,000+500,000=35,500,000円
△個別評価の対象分(B)500,000+1,200,000=1,700,000円
(ここでの個別評価の対象額は、あくまで債権額です。
債務額を引かないように気をつけましょう。)
期末一括評価金銭債権の額(C)
(A)?(B)35,500,000?1,700,000=33,800,000円
実質的に債権とみられないものの額(D) 700,000+1,200,000※=1,900,000円
アメリカ物産 700,000円
※イギリス製作所 1,200,000<1,300,000 ∴1,200,000円
イギリス製作所は債務の金額の方が大きいが、△100,000円と
することにはならず、あくまで、債権額の1,200,000円が
「実質的に債権とみられないものの額」となる。
差引期末一括評価金銭債権の額(E)
(C)?(D)33,800,000?1,900,000=31,900,000円
法定繰入率は卸売業のため、10/1000。
その結果、
31,900,000×10/1000=319,000円となる。
なお、実際に別表に記載した場合ものを下記に記します。
どうでしたか。まあ、かなり面倒くさいということは
おわかりいただけたかと思います。
一つ一つの用語が長ったらしいのが特徴です。
説明する側も大変ですが、読むほうも大変かとは思います。
しかし、税務上の用語は慣れていくしかありません。
このケースは中小企業として法定の繰入率が使用できました。
大企業の場合には、この法定繰入率が使用できないため、過去3年間の
実際に貸倒れした金額を算出しなければいけません。
中小企業には、どちらか有利な方を使用することができます。
ちなみに、あたりまえかもしれませんが、貸倒実績率しか使用できない場合、
実際に貸倒がないケースでは、貸倒実績率がゼロになってしまい、
貸倒引当金を計上しても全額否認されます。
実際の実務でも、貸倒引当金を計上するケースは多いかと思います。
せめて、会計と税務では引当の基準が違う、ということは知っておきましょう。
今回はここまでとなります。
無料メール講座
法人税申告書作成の実務
社長BOKIゲーム企業研修
無料メールマガジン
プロフィール
著書一覧
新着記事
経営支援対策講座(全3回)一般財団法人会計教育研修機構様の実務研修にて講演
一般財団法人会計教育研修機構様の実務研修にて、経営支援対策講座(全3回)を講演いたします。 3月9日(木)第1回「経営参謀の条件」 3月16日(木)第2回「士業・FPコンサルとして差別化する必須知識」 3月24日(金)第3回「コンサル効果を倍増させるコミュニケーション術」2022年11月の簿記検定対策無料セミナーのご案内
公認会計士・税理士の柴山政行です。 簿記検定対策2022年11月の無料セミナーの日程が決まりましたので、ご案内いたします。 日程 セミナー内容 11/12(土) 15:00-16:30 11/23(水) 14:00-15:30 初心者から2級・3級までの簿記学習法 11/17(木) 19:00-20:30 日商簿記1級合格者のメンタル確立法 11/26(土) 14:00-15:30 2023年6月/11月の1級合格プラン 日程 11/12(土) 15:00-16:30 初心者から2級・3級までの簿記学習法 日程 11/17(木) 19:00-20:30 日商簿記1級合格者のメンタル確立法 日程 11/23(水) 14:00-15:30 初心者から2級・3級までの簿記学習法2020年12月の簿記検定対策・ウェブZoom無料セミナーのご案内
「簿記1級合格!年末年始の上手な過ごし方と学習計画」 「156回を踏まえた簿記2級の効率合格ポイント」 去る11月15日に、第156回日商簿記検定が約9カ月ぶりに実施されました。 6月の第155回が中止になったため、ひさびさの本試験でした。 振り返ると、第156回は日商簿記2級の出題内容に対して、いろいろと物議を醸しだした面があり、2級の受験生にとっては厳しい回になった、といえそうです。 そんななか、簿記学習者のみなさんにとってお役に立てる情報の提供をいたしたいと思い、2020年12月の無料セミナーを次の通り企画いたしました。 日程 セミナー内容 12/16(水) 19:00-20:00 12/19(土) 15:30-16:302020年11月の簿記検定対策・ウェブZoom無料セミナーのご案内
「コロナ時代の1級合格の重要性と効率学習法」 「今こそ簿記2級を取ろう!2級の可能性と短期合格法」 みなさん、こんにちは!公認会計士・税理士の柴山政行です。 去る10月1日に、日本商工会議所より第157回(2021/2/28)にて1級を実施すると発表されました。 これは1級受験生にとってはチャンスが増えるため朗報となります。 いっぽう、2020年の新型コロナが日本経済に与える影響は甚大となっているため、 これまで以上に日商簿記検定1級・2級の価値が高まっています。 そんななか、簿記学習者のみなさんにとってお役に立てる情報の提供をいたしたいと思い、 2020年11月の無料セミナーを次の通り企画いたしました。 日程2020年10月の簿記検定対策・ウェブZoom無料セミナーのご案内
みなさん、こんにちは!公認会計士・税理士の柴山政行です。 去る10月1日に、日本商工会議所より第157回(2021/2/28)にて1級を実施すると発表されました。 これは1級受験生にとってはチャンスが増えるため朗報となります。 そこで、今から4ヶ月半~5ヶ月の短期間で1級にチャレンジするための方法を伝授致します。 日程 セミナー内容 10/11(日)【募集終了】 15:00-16:00 第157回に4.5ヶ月で1級合格するための必勝学習法 第158回(2021/6)1級の合格プランと学習の心得 10/11(日)【募集終了】 13:00-14:00 第156回(2020/11)2級3級・短期合格の学習法 第157回(2021/2)2級3級じっくり合格プラン