企業の将来の競争力を占う財務数値…研究開発費
研究開発費とは、文字通り、「研究」または「開発」に
要した費用のことです。
技術革新のスピードが非常に速い昨今、
研究開発活動は、企業の将来の収益性を左右する重要な要素
となっています。
とくに、研究内容が高度化・複雑化するほど、その研究の
ためにかかるコストは、膨大なものとなりますね。
日本においても、自動車産業、電機産業、製薬業界など、
国をリードする主要な企業の多くが、技術の優位性を
自社の強みとするケースが強いです。
したがって、研究開発費の総額や研究開発内容などの情報は
企業の経営方針や将来の収益性を予測する上で、きわめて
重要な投資情報となるわけです。
ところが、わが国の1990年代後半までにおける
研究開発費の会計処理は、次の点で問題を抱えていました。
1 研究開発の範囲が明確でなかったこと
2 支出の一部を政策的にバランスシートの資産として計上し、
他の固定資産の減価償却手続きのように、数年間にわたって
任意に費用を配分できたこと
このような会計制度上の問題点をかかえたままだとしたら、
どうでしょう。
日本への投資を考えている外国人投資家や、日本が海外で
資金調達しようとしている先の外国の資本市場で、従来の
日本の会計基準の整備不足に対して、NOをつきつけてくる
可能性が高いのは、自明ですね。
研究開発費の扱いについても、
ある企業は支出の80%を資産計上し、20%だけ
費用としているのにたいして、他の企業は100%費用
にしている、なんていう不均衡なルールを黙認していれば、
企業間での財務数値・研究開発規模の比較などもできないので、
投資家は困ってしまうわけです。
(事例1)A社は、50億円を研究開発のために支出した。
古い会計ルールでは、5年以内で均等額を消却
すればよかたったので、支出初年度にすべてを
費用化せず、5分の1の10億円だけを費用と
した。
バランスシート
―――――――――――――――
現 金 △50|
|
↓ |
|
開発費 +40|
|利 益 △10←・
―――――――|――――――― ↑
計 △10| 計 △10 ↑
======= ======= ↑
↑
↑
損益計算書 ↑
―――――――――――― ↑
売 上 高 ××× ↑
: : ↑
開発費償却 △10 ↑
: : ↑
――― ↑
当期純利益 △10 →→・
===
(事例2)B社は、50億円を研究開発のために支出した。
今期は、予想外の利益が出たので、支出額すべて
を、費用として計上することにした。
バランスシート
―――――――――――――――
現 金 △50|
|
↓ |
|
|
|利 益 △50←・
―――――――|――――――― ↑
計 △50| 計 △50 ↑
======= ======= ↑
↑
↑
損益計算書 ↑
―――――――――――― ↑
売 上 高 ××× ↑
: : ↑
開 発 費 △50 ↑
: : ↑
――― ↑
当期純利益 △50 →→・
===
このように、1990年代までの古い会計ルール
だと、事例1または事例2の方法が任意に選択できた
ので、同じ規模の研究開発行為であっても、会社によって
会計処理方針が異なれば、まったく違う費用の額になって
しまいます。
これでは、同業の会社どうしで、開発競争のレベルを
比較検討できませんね。
したがって、
企業間比較を保持するために、研究開発費を、全額、
支出時の費用にしよう、とすることに決めたのです。
なお、研究開発費に該当する支出を「資産」として
認識しない根拠については、
「研究開発行為が、将来、企業の収益獲得にほんとうに
貢献するかどうかは、開発段階では不明」という側面も
あるわけです。
じっさい、新しい試みとか、新発見とか開発行為などは、
失敗することも多いですよね。
したがって、企業の財産としてバランスシートに計上する
には、ちょっと資産としての適格性にも疑問があるよね、
ということなのです。
なお、研究開発費は、一般に、支出した年度の損益計算書
に、「一般管理費」として表示されます。
以上、特に製造業における将来の競争力を判断するための
重要な財務データ、研究開発費についてお話いたしました。
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