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取得原価 第3話「そのパソコン、いくらで買ったの?」

A国に、BB社という会社がありました。
BB社は、従業員3人と5坪の小さいオフィスながら、高齢化社会のニーズにマッチした、介護用の人材派遣をアレンジメントするやり手企業でした。
従業員は、入社10年目の温厚な古株社員の課長N氏(40歳、男性、妻子あり)、入社3年目のイケイケ社員Pさん(25歳、女性、かつて“ミスT大”)、そして入社1年目の新入社員K君(23歳、男性、新卒)の3人です。
N氏は、豊富な社会経験と人当たりのよさで、常にお客さんからの厚い信頼を得ています。時には、お客さんのクレーム処理なども手際よくこなしますので、社長からの信頼も絶大です。
Pさんは、やや軽いノリがたまにキズですが、明るくテキパキとしたキャラクターで、世の男性客を中心に(?)、バリバリ業績を伸ばしています。なお、これは余談ですが、ひょっとして学生時代に水商売のバイト経験があるのでは?と疑問を抱かせるほどの、あしらい上手です。みなさん、気をつけましょうね。
K君はといえば、彼は、大学時代にスキー同好会に所属しており、腕前はかなりのものです。将来は、指導員の資格を取れればいいな、などと考えております。そんなわけで、大学時代は楽しく、女性にもそれなりにもてていたようですが、入社後、Pさんという傑物に出会ってショックを受け、女性に対する見方が変化したようです。
さて、そんなある日、K君が二日酔いの重い頭を引きずって出社した朝の事です。
「おはようございますう(*_*)」
「ケンちゃん(K君の愛称)、遅いよ!何具合が悪いフリしてんのさ(-“-)」
「え ?Pさん、あんなに飲んだのに、なんでそんなに超ゲンキなんですかあ?僕なんか、昨日の第三次
新年会(注)で二日酔いになっちゃって、朝起きれませんでしたよ。」
(注)第三次新年会:BB社では、毎年、年末に3回、年始に3回、それぞれ忘年会と新年会を行う。これらは、会社の負担であるから、この不況時になんともうらやましい限りである。ただし、普通の人なら、その金をボーナスでよこせ、というかもしれないが、そこは酒好き・飲み屋好きのBB社の面々、よくも飽きずに飲むものである(著者、注釈)。
「あれぐらいの酒、飲んだうちに入らないよ。あたしが学生の時は、バイト先でみんな倍ぐらい飲んでたからね…」
「…ていうか、Pさんって、学生時代、どんなバイトしてたんですか?」
「おいおい、君たち、おしゃべりはそのくらいにして、仕事仕事!」
 
そんなこんなで、あっというまに夕方です。
「あら、このパソコン、調子悪いわ。」
「どうしたんですか、Pさん。」
「さっき電源落としてさ、もう一回立ち上げようとしたら、最初の画面ばっかりずうっと出ちゃって、次の画
面にならないんだよね。Nさん、見てよ、これ。」
「あらら、本当だ。K君、これ、何とかならんかね。」
「うーん、これはちょっと、業者さんを呼んで修理が必要ですね。」
 …社内を、めずらしく沈黙が流れます。
「修理って、いくらくらいかかるかね。」
「どうでしょう。このパソコン、随分古いですよね。」
「買ってから8、9年くらい経つかな…」
「いつの時代ですか?よくこんなの使っていて、不便を感じなかったですね。」
「男もパソコンも、新しければいいってもんじゃあないのよ。要はコクと深みね。」
 …男のコクって何?と突っ込みを入れたかったK君、後の反撃が怖かったので、言葉を飲み込みました。
「じゃあしょうがない!ここらで一発、新しいパソコンを買うか!!社長には、俺から報告しておけばOKのはずさ。」
「やったあ。さっすがNさん。太っ腹。かっこいい!」
「…太っ腹は余計だよ。いちおう、気にしているんだからさ(-.-)」
「あっ。ごめーん。」
「あの…そ、そんなに急に備品の購入とか大事なことを決めていいんですか?それに、さっきPさん、男とパソコンは新しければいいってもんじゃないとか…」
「あんたはごちゃごちゃとうるさいね!男はそんな小さい事にこだわらないの!」
「そうと決まれば、アキタバラ電気街(注:A国で一番の電気店街)にレッツゴー!(古)」
 という訳で、あっという間に新しいパソコンの購入が全会一致(?)で決まりました。
「じゃあ、K君、あとはよろしく。」
「がんばってね、ケンちゃん。」
「え?がんばってねって、みんなで行くんじゃないんですか?」
「何言ってんだ。我々が一緒についていったって、足手まといになるだけだろう。子供のお使いじゃないんだから。」
「それに、私とNさんは、これから、今月の社長の誕生会の会場を下見しに行かなきゃならないんだからね。もちろん、あんたも後で参加するんだよ。場所はメールしとくからさ。」
また飲み会だ、と思いながらも、K君は一人でパソコンを買いに行くことになりました。
夕方、午後6時ごろ、アキタバラ電気街に到着しました。
ひさしぶりです。やはり、店のあちこちから元気な呼び込みの声が聞こえ、活気にあふれています。
まずは、お目当てのメーカーのパソコンが、各店舗でいくらするのか、市場調査です。
一つ目の店では、「大特価198,000円!他店が、このお値段より安かったら、ぜひ教えてください。当店は、その値段よりも値下げいたします。」
二つ目の店でも、「処分価格198,000円!他よりも安くご提供いたします。もし、当店の価格が高かったら、その場でさらに勉強いたします!」
どのお店も、以上のような感じでした。5店舗を回った結果、パソコンの価格帯は、197,500円 198,000円とわかりました。
いいかえれば、K君が買おうとしているパソコンについては、この値段の幅が、アキタバラ電気街での代表的な流通価格、すなわち時価と考えてもよさそうです。
ただし、この価格は、毎日、お客さんとの力関係でどんどん変化しますし、東京証券取引所の株価に比べて客観性は劣りますよね。
K君は、その中で、197,500円と最も値段が低かったL店でパソコンを購入しました。
さらに、そこで勤めている店員さんが学生時代の友人だったので、特別に190,000円で買うことに成功しました。
「あ、そうそう。悪いけど、パソコン代190,000円で領収書を書いてもらえるかな?」
K君は、予想よりも安くパソコンを買えたことで、上機嫌でした。パソコンは、翌日、配送してもらうことになりました。
店を出て携帯電話を見てみると、Pさんからのメールが入っていました。どうやら、社長の誕生会の会場が決まったようです。K君は、メールの住所と道順を頼りに、料理屋さんへと向かったのでした。
料理屋さんに着くと、N氏は、すでにかなりの上機嫌でした。
「おう。ケンちゃん、きたかきたか。とにかく、駆けつけ30杯だ!なーんてな。ガッハッハ!」
「…Nさん、できあがるの早すぎですよ。」
ともあれ、K君も、二人のペースに巻き込まれ、ガンガン飲んでしまいました。
これでは、また次の日も二日酔いで遅刻、何てことにならなければよいのですが…
翌日、K君は、お昼過ぎに出社しました。
「…おはようございます。」
「K君、もう午後だぜ。おはようもないもんだな。私とPさんは、今朝、出勤時間どおりに来たんだぞ。サラリーマンたるもの、前日の酒を引きずるようじゃ、まだまだ修行が足らんワイ!」
「足らんワイ!(By P女史)」
「いや、NさんとPさんが異常に強すぎなんですよ。僕だって、学生時代は酒が強い方だっていわれていたんだから…」
「ふん。鍛え方が違うわい。」
「Nさんは、学生時代、相撲部にいたんだって。まあ、器がちがうってことね。」
「あ、それはそうと。僕、三次会の後、タクシーに乗せられましたよね。実は、タクシーに乗ってから後の事が、全然記憶に無くって。気がついたら、自分の部屋でスーツのまま寝てたんですけど。」
「あら、横に知らない女性がいたりしなかった?」
「茶化さないで下さい。どっかのドラマじゃないんだから。それで、朝の10時半ごろに目が覚めてみると、財布が内ポケットからなくなっていたんです。そんなこんなで、財布を捜したり、カードの紛失届けを出したりして、遅くなってしまいました。動転していて、連絡を忘れていたことは、申し訳ないと思っています。」
「まあ、それはいいよ。Pさんなんか、以前、男との別れ話が終わらないだかの理由で、夕方まで会社に来なかったことがあるくらいだからね。ホントにうちの社員ときたら…トホホだよ。」
「Nさん。そうは言うけど、あの時、死ぬの死なないのと、それは大変だったんですからね。」
「コホン、あー、それはともかくとして。財布は結局、見つかっていないんだね?」
「はい。それで、昨日買ったパソコンの領収書も、財布と一緒になくなってしまいました。」
「それじゃあ、備品購入の伝票が切れないじゃないの。これからは、ケンちゃんじゃなくて、軽率ちゃんね!」
「すみません。」
「まあまあ。で、そのパソコンは、いくらだったんだね。」
「アキタバラ電気街では、197,500円から198,000円の価格でした。そこで、197,500円の店で買いました。」
「じゃ、197,500円ね。」
「はい。でも、そこから値下げさせたので、払った金額は190,000円です。ただし、その領収書を失くしてしまったので、取得時のパソコンの評価額は、197,500円になるのですか?」
「いや。時価というのは、証券取引所のような公設の市場でもない限り、非常にあいまいで後日の立証が難しいんだ。したがって、会計的には、領収書などの証拠資料で検証できる『支出額』を取得財産の評価額とすることになっているんだ。」
「じゃあ、190,000円なんですね。さっすが、N課長は物知りですね。」
「それも、領収書があってのことだ。さっさともういっぺん店へ行ってもらってこーイ!」
「はい 。行ってきまーす。」
やれやれ、K君、またもや社内での株を下げてしまいましたね。
取得時の資産価額を、時価ではなく支出額ベースとする考え方を、会計の世界では、「取引価額主義」というようですね。
そのココロは、計算の確実性・客観性を保持するために採用しているのです。
また、この後の期末評価においても、時価ではなく取得時の支出額を援用する考え方を採用します。
やはり、計算の確実性・客観性を保持し、時価の上昇による不確実な未実現利益を計上しないためです。
なお、取得時の支出額は、「取得原価」と呼ばれます。そこで、期末の資産評価にさいして支出額を基本とする考え方を、「取得原価主義」などと呼んだりするわけです。
それでは、次回をお楽しみに!

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