費用配分の原則 第1話 「バナナのたたき売りとお役人」
この度は、「かいけい童話」のせかいへ、ようこそいらっしゃいました。
実は、わたくし、常日頃より、とても残念に思っていることがございます。
人間社会では、どうやら、「お金のうごきをメモするきまりごと」が、「会計学だ!」などと小難しく言って、世の人を惑わせているようですねえ。
そこで、わたくしこと「末期 S山(誤変換)」、もとい「マッキ S山」が、S山家に代々伝わる童話を皆さんにご披露しつつ、「かいけい」という「ちょっと面白い世界」をのぞいていただけるよう、
一肌脱ごうと考えた次第です。
それでは、はじまりはじまり (^◇^)
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むかしむかし、N国という国に、バナナを売って生活をしているおじいさんがいました。
おじいさんは、古くからの友達がつくったバナナを、1ふさ60円で仕入れて、
それを100円で売っていたそうです。
つまり、1ふさ売ると、40円のもうけになるわけですね!
はじめのうち、商売のやりかたは素朴でした。
おじいさんは、人の通る道で、いつも地べたにござを敷き、その上にバナナを並べてじい っと待っていたのです。
ところが、ある日、いかにもそれではつまらない、と考えるようになりました。
「うーむ。何か、道行く人がはっと立ち止まるような、いいアイディアがないかのう…」
そんな時、何の気なしにみていたテレビの画面では、漫才師のいっぽうが、くだらないボケをかましていました。
すると、もう一人が、すばやくズボンの後ろのほうからハリセンをとりだし、相方の頭を勢いよくはたきました。
「なんやソレ!!スパーン!!!」
すさまじいツッコミに、場内はやんややんやの大喝采です。
「これじゃっ!」
おもわず腰を浮かせて叫んだおじいさん。
「ぎっくり腰は大丈夫?」と余計な心配をしてしまいます。
そんなことにはおかまいなしに、おじいさんは、さっそく、財布を握り締めて、近くの日曜大工センターへと向かいました。
日曜大工センターで最初に買ったのは、画用紙です。
これは、ハリセンを作るための材料でした。
次に、おじいさんは、おおきな木の板を1枚買いました。
どうやら、これを4枚に切って組み立て、バナナを置く台を作ろうと考えているようです。
レジに並ぶこと5分、おじいさんの番になりました。
店員さんがバーコードをピッピッと商品に当てます。
「画用紙と板で、しめて1,000円になりまあす。」
「すまんが、領収書をきってくれんかのう。」
…おじいさん、しっかりしてますね。(-.-)
さて、いそいそと家に帰ったおじいさん。
のこぎり、とんかち、釘を取り出して、ギコギコ・トンカンと日曜大工をはじめました。
そして1時間後。立派なバナナのたたき売り台ができあがったのです。
努力の甲斐あってか、バナナのたたき売りはとてお順調でした。
そんなおり、一年が経った頃、おじいさんは、確定申告という、税金を計算するための申告書類をお役所へ届出ることになりました。
その内容は、次のとおりです。
【確定申告書】
のうぜいぎむしゃ:おじいさん
じゅうしょ :N国 〇×町 1ちょうめ
参考までに、N国では、税引前の利益に対し、なんと50%の税金が課せられるのです!
せっかく稼いでも、ずいぶんと税金を取られてしまうのですね。
さて、おじいさんが確定申告と納税を済ませてから数ヵ月後がたちました。
いつものとおり、おじいさんが道端でバナナのたたき売りをしていますと、銀ぶちのめがねをかけた、めつきの鋭い男の人があゆみよってきました。
「なんだろう?」
おじいさんは、ふと、不安になりました。
「おじいさん。ちょっとしつれいしますよ。」
目つきの鋭い人は、おじいさんの横に腰掛けると、
かばんの中から、おじいさんが提出した確定申告書を取り出しました。
「おじいさんの確定申告書について、ひとつ、おたずねしたいことがあります。」
「なんでしょう?」
「おじいさんは、収支の計算書の中で、叩き売り台費用を1,000円ほど
あげていらっしゃいますが、これは、当期に購入した額のすべてですか?」
「そうですが…」
やはりねえ、と目つきの鋭い人は小さくつぶやき、ためいきをつきました。
「わが国の法律では、1年を超えて使用できる財産、つまり固定資産は、支出時の全額費用としてはいけないんですよ。
実際には、資産の寿命を3年と見なして、3年後の処分価値を購入額の10%の100円とし、3年後の処分価値を差し引いた額、つまり“1,000円の90%相当額である900円”を、取得後3年の期間にわたって1/3ずつの費用としなければいけないんです!」
「え?」
おじいさんは、目つきの鋭い人の言っている意味が、わかりませんでした。
「やはり、ご存じなかったのですね。それでは、私が用意してきたおじいさんの修正申告書(案)をお見せしましょう。」
【修正した確定申告書】
のうぜいぎむしゃ:おじいさん
じゅうしょ :N国 〇×町 1ちょうめ
「おじいさん。あなたのもっているばななのたたき売り台とハリセンは、今年だけ使って、すぐに捨てるわけではないですよね?」
「そ、そうじゃがしかし…」
「ということは、そのたたき売り台とハリセンは立派な資産です!よって、法律により、備品は3年の寿命とみつもって、費用は3等分くらいに分けて計上してください。
つまり、この台がおじいさんの商売に貢献するであろう今後3年間にわたって、各年の収入に少しずつ費用として対比させて業績を計算するのです。
けっきょく、取得額1,000円から当期の費用額300円を差し引いた残りの金額700円は、未使用分の財産価値として財産の一覧表に載せて申告していただかないと困りますよ!」
「…ふーっ。そりゃあたしかに、この台とハリセンは長く使えるから、財産と言えなくもないが、それにしても1,000円ぽっちなんじゃから、ちょっとくらい大目に見てくれてもばちは当たらんだろうに。お役人様は、頭が固くてかなわんワイ!」
役人の人の強い口調に、おじいさんは、しぶしぶたたき売り台とハリセンを資産として計上することを承知しましたとさ。
いかかがでしたか?
これを、S山家の家訓では、「正しい業績を知りたくば、長期設備は支出額を数年にわたって費用配分すべし!」と言い伝えています。
人間社会では、これを「費用配分の原則」などといっているようですね!
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