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実現主義 第2話「よくばりおじいさんの見込み違い」

今回は、「よくばりおじいさんの見込み違い」です。
それでは、はじまりはじまり。
むかし、あるところにおもちゃ屋のおじいさんがいました。
このおじいさんは、いつも金儲けのことばかり考えていることで、近所でも有名でした。
毎日、インターネットの情報をチェックしつつ、「次は何が売れるかのう…」などとつぶやきながら流行の商品をいち早く探し出し、ドンドン仕入れてお客に高く売ろうともくろんでいたのでした。
そんなある日、おじいさんがインターネット情報を検索していると、次のようなページが表示されました。
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いま流行りのグッズ、イチオシ情報!!
3ヶ月前に売り出された「ヒヨコッチ」が、今、子供の間で大人気!
この「ヒヨコッチ」は、おとうさん・おかあさん達がかつて小学生くらいのころに大ヒットした「たまごっち」の復刻版だ。
このたまごっちが売り出されていた頃は、1個1,000円もしないようなおもちゃが、一時期は1万円を超える高値で売買されるなど、その人気は凄まじいものがあったらしい。
ところが、もちろんのこと、ヒヨコッチだって負けちゃいない。
もともと5匹の愛らしいヒヨコのキャラクターがあり、それぞれを同時に発売した時から、いきなりどのキャラクターも売り切れ店続出の大反響だ。
その後、口コミなどでオトナの購買層にもどんどんその対象が広がっている。おもちゃ製造メーカーA社の工場責任者Mさんの話では、休日を押してのフル稼働でも生産が追いつかないほどの注文数だという。
もとの定価は1,000円だが、一部のマニアの間では、ナント2万円(元の売価の20倍)の高値がついているとも聞くからなんとも驚きだ!
君も時代の波に乗り遅れるな!!
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「なるほど。そんなに大人気のおもちゃならば、たくさん仕入れて高く売りつければ、さぞかし儲かるのう、フォッフォッフォ…」
ラッキーなことに、おもちゃ製造メーカーA社の工場責任者Mさんは、おじいさんの古くからの知り合いでした。
「M君は昔からの付き合いじゃから、裏から手をまわして、じゃんじゃん買い付けられるのう!これでうちの店にも蔵が建つワイ<^◆^>」
…おじいさん、腹黒いことを考えているようですねえ。
翌日、おじいさんは知り合いのM氏のところへ訪れました。
「や、やあ。おじいさん。ずいぶんと久しぶりですねえ…」
突然の訪問に、ちょっとびっくりのM氏です。おじいさんが昔から欲深いことを知っているので、こんどはどんな難題を持ちかけられるか内心ひやひやです。
「そんなに構えんでもいいじゃないか。しばらくぶりで会ったというに…」
「で、今回は、どんなご用件ですか?」
「昨日、たまたまインターネットで見たんじゃが…」
「インターネットお?」
M氏は、おじいさんとITの意外な取り合わせに目を丸くしてしまいました。
「なんじゃ、その驚きようは。わしだって情報化の時代の波に、ちゃあんと乗っておるワイ。…それはともかくとして、最近、ヒヨコッチなるおもちゃが、非常に人気だそうじゃのう。そこで相談なんじゃが、わしにもその人気商品をひとつ譲ってくれんか。」
そらきた、とM氏は思いました。
「せっかくなんですが、あの商品は今、引き合いが多くて、おじいさんに回す分が確保できるかどうか、はっきりとお約束できないんですよ。」
「ほほう。M君がこの商売を始めたときに、開業のノウハウを1から教え、材料の仕入業者の紹介、資金調達などで随分と協力してやったのは誰だったかのう?あの時は、忙しいさなかをやりくりして、随分と骨をおったものじゃよ…」
「わかった。わかりましたよ。それを言われちゃ、頭が上がりません。私の裁量で、とりあえず2,000個だけ、何とかしましょう。もう、こんな無茶はこれっきりにしてくださいよ、おじいさん!」
「はいはい。わかりましたよ。ところで、1個の仕入値段は、いくらかね?」
「当社規定の単価で1個当たり600円です。1週間後に納品しますから、そのときに代金1,200,000円を支払ってください。」
「1個600円ね、承知しましたよ!」
帰り道、おじいさんは、さっそく頭の中で皮算用です。
「今、1個あたり2万円で売れるとするならば、仕入原価600円との差額が、ナ、ナント19,400円!こりゃあ笑いが止まらんワイ。」
1週間後、さっそくおじいさんの元にヒヨコッチが2,000個納入されました。
「はい、それじゃあ1,230,000円、確かに支払いましたよ。あと送料が30,000円ですか。はいはい、それぐらい、オッケーですよ。喜んで支払いましょう。」
商品の原価は、1,200,000円+30,000円=1,230,000円で、単価は1,230,000円÷2,000個=615円です。これは、納品書(送り状)や運賃の領収書で客観的に確認できますね。
さて、それとは別に、おじいさんはかねてから住居とお店を改修・増築し、もっと見栄えをよくしたいと考えていました。
そんな折、ヒヨコッチの儲け話が舞い込んだわけです。そこで、ヒヨコッチの時価2万円×2,000個=4,000万円の売上を見越して、どーんと建設業者に工事を依頼することになったのでした。
ヒヨコッチを仕入れた日の翌日、建設業者の営業担当がやって来ました。
「おじいさん、こんんちわ。お店と住居を改修・増築したい、というご相談ですね。先日、電話でお話いただいた内容をもとに、簡単ですが、見積を作ってきました。大体、総額で2,000万円くらいになりますが、お支払いのほうは大丈夫ですか?」
「もちろん、大丈夫。昨日、時価2万円の商品を2,000個、原価615円で仕入れたので、19,385円×2,000個=3,877万円の利益が手にできるわけじゃよ。」
「…へえ、それはすごい。じゃあ、大もうけですねえ。」
「まあな、ふぉっふぉっふぉっ…」
おじいさん、得意満面の笑みです。
さて、かんじんのひよこっちですが、当初の売上は、予想を上回るものでした。
店頭に並べた100個が、発売後2日で全部売れてしまいました。値段は1個2万円です。
つまり、1日あたり100万円の売上を個人のおもちゃ屋さんで上げてしまったのでした。
これでは、笑が止まらないのも、無理はありませんね。
あまりの売れ行きに、おじいさんは、もっと儲けたいという欲望にかられました。
そこで、この2日分の売上200万円のうち120万円(+運賃3万円)を支払って、さらに2,000個のひよこっちをM氏から仕入れたのです。もちろん、M氏には相当の無理を強いることになったのですが、目先の欲に目がくらんだおじいさんは、すっかり周りのことが見えなくなっていたのでした。
さて、話を戻します。発売後10日間は、初日と同じく50個ずつ順調に売れました。
つまり、4,000個の総仕入数量のうち、500個は10日間ではけたわけですね。
おじいさんは、500個×2万円=1,000万円の売上収入を、たった10日間で手に入れたのです。
しかし、夢のような出来事は、長くは続かないものです。人気急上昇の商品は、人気が衰えるのもあっという間でした。
発売後10日を越えたあたりから売上が減り始め、2週間目には、ほとんど売れなくなってしまいました。
結局、発売から2週間ちょっとで、売れた商品は600個でした。
それでも、仕入による支出4,000個×615円=246万円に対して、売上が1,200万円なのですから、1,000万円近くはお金が残るはずだったのです。
しかし、おじいさんは、全部売れないうちに、勝手に8,000万円もの売上を夢見てしまったために、設備投資資金2,000万円という多大な負担を背負う羽目に陥っていたのでした。
ここでS山家に伝わる教訓です。
「商品は、お客に売るまで利益にならない!もっているだけでは、粗大ごみと一緒!!」
特に、市場見込み生産品では、将来、市場が予想と違う動きをした場合、在庫負担を過大に抱えるリスクを無視できないのです。
このように、商品の保有中には利益を認識せず、販売(財・役務の提供+代金の受領)があって、はじめて売上を認識し、ひいては売上原価との差額である利益を認識するべきである、という考え方を、会計の世界では、「実現主義の原則」と言っているようですね。
 
今回のお話は、以上でおしまい♪

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