連続意見書第三 有形固定資産の減価償却について
連続意見書第三 有形固定資産の減価償却について
大蔵省企業会計審議会
企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書
連続意見書第三
有形固定資産の減価償却について
(昭和35.6)
第一 企業会計原則と減価償却
一 企業会計原則の規定
減価償却に関する企業会計原則の基本的立場は、貸借対照表原則五の2項に左のごとく示されている。
「資産の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業年度に配分しなければならない。有形固定資産は、その取得原価を当該固定資産の耐用期間にわたり、一定の減価償却方法によって各事業年度に配分し、無形固定資産及び繰延資産は、有償取得の対価を一定の償却方法によって各事業年度に配分しなければならない。」
これによって明らかなように、減価償却は、費用配分の原則に基づいて有形固定資産の取得原価をその耐用期間における各事業年度に配分することである。
二 減価償却と損益計算
減価償却の最も重要な目的は、適正な費用配分を行なうことによって、毎期の損益計算を正確ならしめることである。このためには、減価償却は所定の減価償却方法に従い、計画的、規則的に実施されねばならない。利益におよぼす影響を顧慮して減価償却費を任意に増減することは、右に述べた正規の減価償却に反するとともに、損益計算をゆがめるものであり、是認し得ないところである。
正規の減価償却の手続によって各事業年度に配分された減価償却費は、更に原価計算によって製品原価と期間原価とに分類される。製品原価に分類された減価償却費は製品単位ごとに集計され、結局は売上原価と期末棚卸資産原価とに二分して把握される。このうち売上原価に含まれる部分は、期間原価として処理される減価償却費とともに当期の収益に対応せしめられるが、期末棚卸資産原価に含まれる部分は翌期に繰り延べられ、翌期以降の収益に対応せしめられることになる。
三 臨時償却、過年度修正
減価償却計画の設定に当たって予見することのできなかった新技術の発明等の外的事情により、固定資産が機能的に著しく減価した場合には、この事実に対応して臨時に減価償却を行なう必要がある。この場合生ずる臨時償却費は、所定の計画に基づいて規則的に計上される減価償却費と異なり原価性を有しないとともに、過年度の償却不足に対する修正項目たるの性質を有するから、これを剰余金計算書における前期損益修正項目として処理する。
一般に、過年度の減価償却について過不足が認められる場合には、これに対して修正を加えなければならない。かかる修正は、これを剰余金計算書における前期損益修正項目として処理する。
なお、災害、事故等の偶発的事情によって固定資産の実体が滅失した場合には、その滅失部分の金額だけ当該資産の簿価を切り下げねばならない。かかる切下げは臨時償却に類似するが、その性質は臨時損失であって、減価償却とは異なるものである。
四 固定資産の取得原価と残存価額
減価償却は、原則として、固定資産の取得原価を耐用期間の各事業年度に配分することであるから、取得原価の決定は、減価償却にとって重要な意味を有する。固定資産の取得にはさまざまの場合があり、それぞれに応じて取得原価の計算も異なる。
1 購入 固定資産を購入によって取得した場合には、購入代金に買入手数料、運送費、荷役費、据付費、試運転費等の付随費用を加えて取得原価とする。但し、正当な理由がある場合には、付随費用の一部又は全部を加算しない額をもって取得原価とすることができる。
購入に際しては値引又は割戻を受けたときには、これを購入代金から控除する。
2 自家建設 固定資産を自家建設した場合には、適正な原価計算基準に従って製造原価を計算し、これに基づいて取得原価を計算する。建設に要する借入資本の利子で稼働前の期間に属するものは、これを取得原価に算入することができる。
3 現物出資 株式を発行しその対価として固定資産を受け入れた場合には、出資者に対して交付された株式の発行価額(商法第百六十八条および第二百八十条の二にいわゆる現物出資の目的たる財産の価格に当たる額)をもって取得原価とする
4 交換 自己所有の固定資産と交換に固定資産を取得した場合には、交換に供された自己資産の適正な簿価をもって取得原価とする。
自己所有の株式ないし社債等と固定資産を交換した場合には、当該有価証券の時価又は適正な簿価をもって取得原価とする。
5 贈与 固定資産を贈与された場合には、時価等を基準として公正に評価した額をもって取得原価とする。
固定資産の取得原価から耐用年数到来時におけるその残存価額を控除した額が、各期間にわたって配分されるべき減価償却総額である。残存価額は、固定資産の耐用年数到来時において予想される当該資産の売却価格又は利用価格である。この場合、解体、撤去、処分等のために費用を要するときには、これを売却価格又は利用価格から控除した額をもって残存価額とする。
なお、固定資産の取得時以後において著しい貨幣価値の変動があった場合および会社更生、合併等の場合には、当該固定資産の再評価を行ない、これによって減価償却の適性化を図ることが認められることがある。
五 費用配分基準と減価発生の原因
固定資産の取得原価から残存価額を控除した額すなわち減価償却総額は、期間又は生産高(利用高)のいずれかを基準として配分される。およそ固定資産は土地のような非償却資産を除くと、物質的原因又は機能的原因によって減価し、早晩廃棄更新されねばならない状態に至るものである。物質的減価は、利用ないし時の経過による固定資産の磨滅損耗を原因とするものであり、機能的減価は、物質的にいまだ使用に耐えるが、外的事情により固定資産が陳腐化し、あるいは不適応化したことを原因とするものである。
減価が主として時の経過を原因として発生する場合には、期間を配分基準とすべきである。これに対して、減価が主として固定資産の利用に比例して発生する場合には、生産高を配分基準とするのが合理的である。
六 減価償却計算法
1 期間を配分基準とする方法
期間を配分基準とする減価償却計算の根本問題は、耐用年数の決定に存するが、これが決定されている場合、各事業年度の減価償却費を計算する方法として次のごときものがある。
定 額 法
定 率 法
級 数 法
償却基金法
償却基金法に類似する方法に年金法がある。年金法においては、減価償却引当金累計は減価償却総額に一致するが、減価償却費には利子が算入されるから減価償却費の累計は利子部分だけ減価償却総額を超過する。このように年金法は利子を原価に算入する方法であるため、一般の企業においては適用されていない。しかしながら、利子を原価に算入することが法令等によって認められている公益企業においては、この方法を用いることが適当であると考えられる。
2 生産高を配分基準とする方法
生産高(利用高)を配分基準とする方法には生産高比例法がある。この方法は、前述のように、減価が主として固定資産の利用に比例して発生することを前提とするが、このほか、当該固定資産の総利用可能量が物質的に確定できることもこの方法適用のための条件である。かかる制限があるため、生産高比例法は、期間を配分基準とする方法と異なりその適用さるべき固定資産の範囲が狭く、鉱業用設備、航空機、自動車等に限られている。
なお、生産高比例法に類似する方法に減耗償却がある。減耗償却は、減耗性資産に対して適用される方法である。減耗性資産は、鉱山業における埋蔵資源あるいは林業における山林のように、採取されるにつれて漸次減耗し涸渇する天然資源を表わす資産であり、その全体としての用役をもって生産に役立つものでなく、採取されるに応じてその実体が部分的に製品化されるものである。したがって、減耗償却は減価償却とは異なる別個の費用配分法であるが、手続き的には生産高比例法と同じである。
七 取替法
同種の物品が多数集まって、一つの全体を構成し、老朽品の部分的取替を繰り返すことにより全体が維持されるような固定資産に対しては、取替法を適用することができる。取替法は、減価償却法とは全く異なり、減価償却の代りに部分的取替に要する取替費用を収益的支出として処理する方法である。取替法の適用が認められる資産は取替資産と呼ばれ、軌条、信号機、送電線、需要者用ガス計量器、工具器具等がその例である。
八 耐用年数の決定
固定資産の耐用年数は、物質的減価と機能的減価の双方を考慮して決定されねばならない。物質的減価は技術的に比較的正確に予測されうるが、機能的減価は偶然性を帯び、これを的確に予測することがはなはだ困難である。このために、従来、耐用年数は主として物質的減価を基礎として決定され、機能的減価はあまり考慮されないのが実情であった。しかしながら、今日のように技術革新がめざましい勢いで進行しつつある時代においては、機能的減価を軽視することは許されない。したがって、今後における耐用年数の決定に際しては、機能的減価の重要性を認め、過去の統計資料を基礎とし、これに将来の趨勢を加味してできるだけ合理的に機能的減価の発生を予測することが要求される。耐用年数が決定されたのちに、その耐用年数の前提条件となっている事項が著しく変化した場合には、これに応じて当該耐用年数を変更しなければならない。耐用年数の変更は、将来に影響するばかりでなく、原則として前期損益修正を必要ならしめる。
九 一般的耐用年数と個別的耐用年数
固定資産の耐用年数には、一般的耐用年数と企業別の個別的耐用年数とがある。一般的耐用年数は、耐用年数を左右すべき諸条件を社会的平均的に考慮して決定されたもので、固定資産の種類が同じであれば、個々の資産の置かれた特殊的条件にかかわりなく全国的に画一的に定められた耐用年数である。これに対して、個別的耐用年数は、各企業が自己の固定資産につきその特殊的条件を考慮して自主的に決定したものである。元来、固定資産はそれが同種のものであっても、操業度の大小、技術水準、修繕維持の程度、経営立地条件の相違等によってその耐用年数も異なるべきものである。現在、わが国では税法の立場から定められた一般的耐用年数のみが行なわれているが、上述の理由により、企業を単位とする個別的耐用年数の制度を確立し、わが国の減価償却制度を合理化する必要がある。
十 個別償却と総合償却
個別償却は、原則として、個々の資産単位について個別的に減価償却計算および記帳を行なう方法である。個別償却では、耐用年数の到来する以前に資産が除却されるときは、当該資産の未償却残高は除却損として処理される。これに対して、固定資産が耐用年数をこえて使用される場合には、耐用年数終了のときに既に未償却残高がなくなっているから、それ以後の使用に対して減価償却を計上する余地は存在しない。
総合償却には二種の方法がある。その一つは、耐用年数を異にする多数の異種資産につき平均耐用年数を用いて一括的に減価償却計算および記帳を行なう方法であり、いま一つは、耐用年数の等しい同種資産又は、耐用年数は異なるが、物質的性質ないし用途等において共通性を有する幾種かの資産を一グループとし、各グループにつき平均耐用年数を用いて一括的に減価償却計算および記帳を行なう方法である。
総合償却のもとでは、個々の資産の未償却残高は明らかでないから、平均耐用年数の到来以前に除去される資産についても、除却損は計上されないで、除却資産原価(残存価額を除く。)がそのまま減価償却引当金勘定から控除される。このため総合償却法では、平均耐用年数の到来以後においても、資産が残存する限りなお未償却残高も残存し、したがって、減価償却費の計上を資産がなくなるまで継続して行ないうるのが通常である。
十一 減価償却引当金
毎期の減価償却額はこれを固定資産価額から直接控除しないで、減価償却引当金勘定に記入する。減価償却引当金勘定は、個別償却の場合には、個々の資産単位ごとに、また総合償却の場合には、多数資産の総合単位ないしグループ単位ごとにこれを設定する。
固定資産が除却され、あるいは滅失した場合には、当該固定資産の減価償却引当金は個別償却法又は総合償却法に従って取り崩される。減価償却引当金は評価性引当金であるから、その残高は、これを固定資産取得原価から控除する形式で貸借対照表に記載する。
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