投資有価証券の評価損益と貸借対照表の表示
有価証券といえば、株式と債券が代表例ですね。
(そのほか、あまり知られていないものとしては、
コマーシャルペーパーという、手形の形式をした金融商品も有価証券に含まれます。)
譲渡性のある証券類であることなどが、有価証券の大きな特徴です。
なお、有価証券は、それを取引する市場があれば、時価が市場で
形成されますよね。
いわゆる、「市場性ある有価証券」というやつです。
上場企業の発行する株式などはこれです。
もちろん、市場性のない未公開株もあります。
未公開株などは、公正な時価がつかないので、決算期においても
原則として取得原価(購入時の支出額)で評価し、バランスシートに
記載されます。
貸借対照表
―――――――――――――――――――
|
投資有価証券 ××|
|
↑
未公開株などは、原則として原価ベースで金額が記載されます。
なお、時価のある有価証券で、時価の変動による利益を獲得する
目的で所有しているものを「売買目的有価証券」といい、
貸借対照表上は流動資産という区分(B/Sの左上のあたり)に
含めて表示され、時価で評価されます。
貸借対照表
―――――――――――――――――――
(流動資産) |
有価証券 ××|未処分利益 ××
(時価)| (含み損益だけ増減)
| ↑
↑
P/Lの当期純利益も
有価証券評価損益の額だけ
増減し、未処分利益に影響
なお、短期売買目的でもない、支配目的(子会社化)でもないような、
所有目的が明確でないけど所有しているような有価証券は、
「その他の有価証券」などとも呼ばれ、貸借対照表上は
固定資産(すぐに資金化される予定はない資産の区分)に含めて、
投資有価証券という名称で表示されます。
(株式持合い、取引安定化のための取引相手の株式取得など)
そして、上場株であって、なおかつ
「短期売買目的」でもない、「支配目的」でもないような株式は、
時価があるのですから、いちおう決算日現在の時価で評価しておきます(時価法)。
やっぱり、投資家としては、その投資有価証券が、決算日現在で
売却・換金されたらどれくらいの金額になるか、という時価に関する
情報に興味がありますからね。
○まとめ
売買目的有価証券…時価評価
投資有価証券(非上場)…原価評価
投資有価証券(上 場)…時価評価
(ただし、評価損益はP/Lを通さない)
貸借対照表
―――――――――――――――――――
|
: |未処分利益
(固定資産) | :
投資有価証券 ××|有価証券 ××
(時価)|評価差額金 ↑
| ↑
資本の部で直接増加
(P/Lの利益は無関係)
(事例1)A社(上場企業)の株式を取引関係安定のために50万円で
取得した。
貸借対照表
―――――――――――――――――――
現金預金 △50|
: |未処分利益 ××
| :
投資有価証券 50|有価証券 0
(原価)|評価差額金
(事例2)A社(上場企業)の株式時価が、決算日現在、72万円に上昇した。
貸借対照表
―――――――――――――――――――
現金預金 △50|
: |未処分利益 ××
| :
投資有価証券 72|有価証券 12(←含み益相当)
(時価)|評価差額金
(事例3)A社(上場企業)の株式時価が、次の年の決算日現在、47万円に下落した。
貸借対照表
―――――――――――――――――――
現金預金 △50|
: |未処分利益 ××
| :
投資有価証券 47|有価証券 △3(←含み損相当)
(時価)|評価差額金
…いかがですか?
上記の事例2(含み益の場合)、および事例3(含み損の場合)の
ように、投資有価証券の時価と原価の差額は、「有価証券評価差額金」
のような名称を用いて、これまで表示してきたのです。
上記は、スペースが狭いので簡略化しましたが、実務上は、
「その他有価証券評価差額金」のように、長い科目名だったりします。
なお、上記のような投資有価証券が、著しく下落(おおむね50%以下
への異常な下落)をしたような場合で、回復する見込みがある以外の
ケースでは、評価損を損益計算書の「特別損失」という異常な損失を
表示する区分で処理することもありますが、これは応用論点として、
会員制CDセミナーでプラスワン解説することにいたします。
以上、投資有価証券の含み損益に関するお話でした。
→ 仕事に使える決算書の基本を徹底的にマスターするためのDVD講座
無料メール講座
法人税申告書作成の実務
社長BOKIゲーム企業研修
無料メールマガジン
プロフィール
著書一覧
新着記事
- 【連結入門・未実現利益の考え方】土地と建物の未実現利益に関する処理の比較でマスター
連結会計を学ぶ上で、未実現利益の正しい理解は必須ですね。 この点、最初の理解の仕方を間違えてしまうと、けっこう連結が苦手になったり、遠回りしてしまったりしてしまいます。 そこで、今回の動画では、まず一番簡単な土地の親子間売買(ダウンストリーム)を取り上げ、それとの比較で建物の売却による未実現利益の消去と、それに伴う減価償却費の連結修正について簡単な事例を使って解説いたしました。 この10分程度の動画をさっと視聴することで、連結会計の未実現利益に対する苦手意識を取り除くきっかけになればうれしいです! - 会計士志願者が2倍も、監査法人離れ
2023年9月21日の日経1面です。 2015年を底に2023年までの8年間で公認会計士試験の受験者数が倍増し12年ぶりの2万人台を記録したそうです。 ※2013年~2023年の願書提出者数 2023年 20,318人 2022年 18,789人 2021年 14,192人 2020年 13,231人 2019年 12,532人 2018年 11,742人 2017年 11,032人 2016年 10,256人 2015年 10,180人 2014年 10,870人 2013年 13,224人 (資料:マイナビ会計士)※2013年~2022年 ※2023年は金融庁ホームページ たしかに、過去10年程度で2015年の10,180人がそこになっており、そこから20,318人ですから、この期間において2倍程度増えていますね。 - 社外役員の兼任者数が4割アップ!?~会計士・税理士に新たなフィールドのチャンスが到来?
昨日の日経朝刊は、コーポレートガバナンスに関する非常に興味深い記事でした。 日経1面に出るということは、その日のニュースの中でも日本経済全体に影響を及ぼすと判断されたトピックと考えられるのですね。 いま、日本企業の多くは閉塞感にとらわれているかもしれません。 先行き不透明な中、社内の限られた知見だけで経営を続けていくのがますます難しくなってきています。 社内の常識が世間の非常識、なんてこともあったりしますね。 私は監査法人の勤務時代から強く感じていたことがあります。 会計士はその会社に年中いるわけではないので、その会社の業界知識の深さについてはかなわないのですが、彼らになくて私たちにあったのは「他の多くの会社の実務を見て実態を知っている」という点です。 - 【時事ニュースで学ぶ会計知識】オリンパスの売上高当期純利益率が100%超!?
2023年8月30日の日経18面で報じられていました。 オリンパスの売上高当期純利益率がなんと100%を超えたという珍しいケースです。 普通は、売上高を100とするならば、営業利益は5~8%程度、当期純利益は税引き後なので3~5%くらいがよくあるケースです。 営業利益率が10%以上になってくると、本業で結構儲けが出ている印象を受けます。 個人的には非常に良いイメージですね。 この点、オリンパスさんの営業利益率は13%を超えていますので、一般的な視点で行けば本業での好調さが想像されます。 そして、そこから一定の調整を経て、さらに法人税等が差し引かれるので、営業利益よりも当期純利益は少なくなるのが通常です。 しかし! - 【読んでみたい一冊】週3バイトが東大合格した時間術の本
今回は時間術に関する興味深い視点の本をご紹介します。 限られた時間で効率よく勉強しながら東大に合格した実体験から自身で身に着けた時間管理ノウハウを本にまとめたものです。 ユニークな視点でなるほど~、と思わせるところが多いのと、読みやすく短時間で一気に通読できることから、手軽に時間生産性を上げるためのヒントとして、動画で取り上げてみました。 全部で3章構成からなっているのですが、その全体フローがそのまま企業コンサルの手順にも応用できます。 すなわち、 ステップ1 ムダを削減する ステップ2 今の仕事の効率を上げる ステップ3 それを継続する です。 こうやって書いてみると非常にシンプルですが、そのシンプルさの中にこそ、マネジメントの本質が隠されていることもあります。